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Bye
消え去ったものは戻ってこない。
「――――」
憔悴しきった顔に笑みが漏れる。まだ、名前は覚えている。よかった。徐々に薄れていく彼女の影と存在に怯えた日々も今は懐かしい。顔は彼女がまだ居る時から自分には分からなくなっていた。時間はかかるがじっくりと思い出して行けば彼女の声は思い出せる。しかし、その存在はそれに掛けた時間だけ消えてしまう。
――どうか、
どうか、これが、心が触れたものが消えてしまううこの現象が、僕の中だけでありますように。僕が認識できないだけで、きっとどこかで彼女が笑って過ごしていますように。
でなければ、彼女が生きた証がどこにもない世界なんて寂しすぎる。