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Bye
「さようなら」
そう言って彼女は、と僕の前から居なくなった。
ぱっ、と。息を吸う暇もないほど突然に。
十二時丁度。夜中なので柱時計の鐘は鳴らず、ただ針が進む音だけが部屋に響く。
一度離れていったのにも関わらず、彼女は最後の時を僕と過ごしてくれた。
「―――」
まだ、彼女が僕のことを覚えていてくれて、嬉しかった。嬉しかったのだけれど……。
彼女のいた気配が残る部屋で、やがて消え行くその希薄さに堪えれぬように、僕は床に蹲る。先ほどまで必死に繕っていた笑顔が張り付いたまま。
泣くことはできない。涙を流す余裕もなく彼女の存在は消えていった。残ったのは心にぽっかりと空いた喪失感だけだ。