1-02 魔物討伐
魔物討伐の職は、討伐隊という。
城に属する騎士団の中にある部署のひとつである。
大きくわけて3つ。
王宮騎士隊・警備隊・討伐隊。
花形は王宮騎士で、及川はこの王宮騎士隊である。
この隊も色々細分化されているらしいが、詳しいことは聞いていない。
そんなわけで、4人は討伐隊に臨時参加することになった。
自衛のための訓練として少しくらい経験しておくべきだということだ。
異世界から召喚されたことは、城の人間は大体知っている。
すなわち、騎士も知っているということだ。
及川が救世主として扱われているので、残りはオマケだという認識。
当然、舐められる。
わかってた。
「先輩、」
「駄目だっつの」
苛々した様子の後輩に駄目だししつつ、滾るぜ!とはしゃぐ真琴を抑えつつ。
こんなキャラじゃないのに、と貴人は溜息を吐いた。
春日は俯いたまま、もくもくと歩いている。
討伐隊はいくつかの班にわけられている。
一番優秀だという班に、まとめて放り込まれた。
初めての魔物討伐の標的は3本の角の生えた、大ネズミっぽい魔物である。
この魔物、一匹ずつは強くないが集団行動をとるので面倒なのだという。
生き物を殺すこと。
その覚悟。
いざというときに自分の身を守れないようでは、困る。
城下町から一歩も出ないというならそれもありだと。
だがそういうわけにもいかないだろう。
自分の身を自分で守るために、出来ることはしておかないと。
幸い全員それなりに魔法が使えるので、直接手にかけずにすむ。
上手くやれば死体も残さないように出来るだろう。
一応貸し出されている剣はあるが、訓練すらしていない。
前に見た透明な剣は私物らしいので借りることは出来なかった。
「この辺りでサウンマスが目撃されている。やつらは群れで動くので油断しないように」
隊長の注意があり、それぞれ周囲の探索に出る。
個人で動くと危険なので班単位で動く。
今回は4人一緒なので、この班だけ人数が多い。
魔物を目撃したらホイッスルを鳴らし、討伐隊全体が集合するのである。
最も参加している班が、今回は多くない。
探索開始。
森というほど鬱蒼としてないが、足場は安定していないし、見通しも悪い。
張り切っている滋郎と真琴は班長達と共に前方を歩く。
その少し後ろに貴人と春日。
そのまた後ろにベテランの騎士が一人。
「大丈夫か?」
さっきから春日は一言も話さない。
「……はい」
「別に戦わなくて良いんだぞ」
現実を見ておくことは大事だと思う。
だけど戦わないといけない、ということはない。
特に春日は戦わないで欲しい。
及川が何のために救世主になったのかという話だ。
「でも」
「ここで戦おうが戦うまいが、いざとなったらどうにかなるって」
楽観的だが、春日はここで戦っても何にもならないと思うのだ。
「守る」
「え?」
「及川もいるし、滋郎もマコもいる。春日は戦わなくて良い」
「わたしひとりだけそんな、」
「俺が良いって言ってるんだから良いんだよ」
目の前でうじうじされるとうざい。
ここで戦ってその罪悪感とか嫌悪感とか負の感情でまた落ち込まれることも目に見えていて。
「お前は守られてろ」
春日の頭に手を置き、前を見据える。
「来たみたいだな」
春日もつられて前を見、息をのんだ。
笛がなる。
集合、そして戦闘開始の合図だ。
「来たぁ! ジロ!」
「はいっす!」
走り出す二人。
楽しそうで何よりだ。
「Щ/Ю:Г」
真琴の放った水球が、勢い良く魔物にぶつかる。
魔力を多めに乗せればその分威力もスピードも上がる。
一番最初に覚えた基本中の基本だが、真琴が使えばかなりの威力だ。
「З/Ю:Ж;Г」
滋郎の放った風の刃が魔物を切り裂く。
魔物の体は真っ二つに裂け、血が吹き出る。
青い。
魔物の血液は青か紫が多いのだ。
「Я;Я;Я」
繰り返し、繰り返し。
滋郎が風の刃を無数に操り、魔物を細切れにしていく。
その様子を見て、春日が涙目になる。
顔色も悪い。
何で当事者のあいつらは全然平気そうなのに、何もしてない見ているだけの春日がこうなのか。
不思議だ。
二人が調子に乗ったおかげで、貴人を含め他の騎士たちは出番なしだ。
「いやー、大丈夫だったわ。余裕余裕」
魔物の強さと、生き物を殺すことに対しての両方か。
「そうっすね。魔法で攻撃っていうのと、モンスターの形状がかわいくないからっていうのもあるんすかね」
あっさりと言ってのける二人。
まぁ吐かれたり鬱になられるより全然良い。
「お、お強い、ですね……初めての戦闘だとお聞きしておりましたが」
班長が頬を引き攣らせながら言う。
「魔物討伐は初めてっすけど、まぁ、慣れてますから」
滋郎はおそらくゲームや漫画で耐性があると言いたかったのだろう。
しかし班長はそういう意味で取っていない。
取れるはずもない。
「意外と魔力使わなかったね。っていうか火の魔法使いたかった!」
真琴は火の魔法が一番相性が良いようだ。
しかし森で火を放つわけにもいかないと、今回は禁止されている。
「でもこの程度じゃあ救世主になんてなれないから、ここにいるんすけどねー」
厭味だ。
お前たちより遥かに多いこの魔力を持ってしても、救世主ではないのだと。
にっこりと爽やかそうな笑顔で言い放つ。
滋郎は根に持つタイプである。
「あ、先輩は良かったんすか?」
「別に良い」
魔物討伐は何回か参加予定になっているし、進んで戦いたいとは思わない。
見ている分には気分が悪いこともなかったが、自分の手に掛けるとまた違うのだろうか。
「それよりも終わったなら早く帰ろうぜ。春日がヤバイ」
口元を手で押さえ、蹲る春日。
「わ! 春日チャン大丈夫!? ジロ、おぶれ!」
「え、俺っすか!?」
「当たり前だろ、さっさとしろ!」
滋郎は渋々嫌がる春日をおぶり、歩き出した。
その様子を奇異の目で見る騎士たち。
貴人はこっそりと溜息を吐いた。