1-01 騎士団
語学と魔法とその他色々。
午前中いっぱいは座学、昼食後は魔法を詰め込む。
夕方からは自由時間になるので、滋郎や真琴と訓練場で体を動かすことが多い。
中でも魔法で作った水球を投げたり打ったりが最近のお気に入りだ。
春日は体を動かすのが苦手なようでもっぱら見学である。
イメージ通りだ。
たまに一日中自由な日が出来、城下町に行くようになった。
引率はなしである。
大抵4人一緒に行き、女子が服や小物を見ている間、町を探索する。
服選びになんか付き合ってられるかっつうの。
「先輩、今日はこの店どうっすか?」
「そうだな。つうかこの店で最後なんじゃね?」
今のところ毎回違うケーキ屋に寄っている。
一番最初は一番人気のケーキ屋だったが、次からは寄りやすい順に回った。
城下町にあるケーキ屋は全部で6店舗と聞いている。
この店が6店舗目だ。
意外と多い。
お茶菓子という風習があり、特別な日にケーキを食べる人も多いのだとか。
木製の看板、色の剥げた扉。
埃こそないものの、薄暗い店内にケーキや焼き菓子が並ぶ。
といっても、今まで行った店に比べ、格段に種類が少ないのだが。
何ていうか……期待出来そうにない。
いやいや見た目だけで判断はいかん。
食べるだけは食べよう。
食べるだけは。
生ケーキを4種類と焼き菓子を数点。
いつもより量は控えめである。
やる気のなさそうな猫背の青年に清算してもらい、店を出た。
「何か微妙っすね。やる気もなさそうでしたし」
「だな」
女子と合流し、城に戻る。
今日はこれから及川の訓練を見学するのである。
及川は春日を誘った。
春日は真琴を誘った。
真琴は滋郎を誘った。
滋郎は貴人を誘った。
何だこれ面倒くせぇ。
しかも誘ったんじゃなくて巻き込んだの間違いだろ。
春日と真琴がレモン水を作り、それを差し入れに騎士団の訓練場に行く。
「及川先輩、強いっすねー」
金属のぶつかり合う音が響く。
気合の入った声、怒号、声援。
及川は副団長と思わしき人物と模擬戦を行っていた。
剣と魔法を駆使して戦っているのだが、互角に見える。
貴人はそれよりもその横で模擬戦をしている若い騎士の剣が気になった。
剣の色が透明に見える。
透けているのだ。
「及川先輩の腕なのか補正なのか」
「は?」
「何でもないっす」
「すごいね、ミッチーかっこいいじゃん! ね、春日チャン!」
真琴の目が爛々と輝く。
真琴の持っていき方がちょっと強引な気もするが。
「そうですね、及川先輩が人気なの、わかる気がします」
まぁ春日が同意しただけ良いか。
でも春日の性格上、否定することはない気がする。
「誰がミッチーだ!」
いつの間にか及川が近くまで来ていた。
心なしか顔がにやけている。
「あ、及川先輩、お疲れ様です。これ、良かったら……」
春日にレモン水を手渡され、嬉しそうだ。
わかりやすいデレデレ具合。
それをにやにやと面白そうに見学する滋郎と真琴。
元々及川が春日に好意を持っていることは、周知の事実。
バレバレだ。
初日から目線がずっと春日を追っている。
そして何かと春日を気遣う。
わからないはずがない。
しかし春日はまったく気付いてないようだ。
春日も及川も人気があるのでお似合いだと思う。
貴人にとってはどうでも良いことだが。
「あー、血が騒ぐ! 混ざりたい!!」
真琴がふるふるとふるえ、叫ぶ。
「混ざれば?」
「うぅ……下手に目立ってもあれかなぁって」
確かに、下手に目立って救世主候補にされても困るだろう。
「まぁな」
「あ、じゃあ魔物討伐とかどうっすか? いるんですよね、魔物」
「あーそういえば言ってたな。町の外には出ないようにって」
自由行動の範囲は城下町の中だけだと言われている。
町の外に出れば魔物の出る区域もあるからだそうだ。
そのため魔物討伐の職もあるという。
が、滋郎の期待したギルドは存在しないということで、ショックを受けていた。
「魔物って……スライムとか? レベルとか上がんないのかなー」
「ゲームじゃあるまいし……呪文もあれだったろ、期待すんなよ」
「そうだった……期待なんてしない……」
「そもそも魔物っつっても、生き物を殺すってことだからな」
その覚悟はあるのか。
真琴が落ち込む。
3人で話している間に、及川は訓練に戻って行った。
「そういえばさー、春日チャンってどんな人が好きなの?」
ばっと顔を上げ、にやにやと春日に話しかける真琴。
「え」
途端に春日の顔が赤くなる。
色が白いのでわかりやすい。
「えっと……あの……」
湯気出そう。
「わ、たし……は……その……」
春日は意を決したかのように顔を上げ、真剣な面持ちで語り始めた。
「男の人ってあんまりしゃべらない方が良いと思うんです。無口っていうか、落ち着いてる雰囲気で、クールな感じが格好良いなって。ちょっとぶっきらぼうだけど優しくて頼りになるし、力もあって。すごく真剣に働いてるのも格好良いんです。人気あるのに相手にしないところも媚びてないっていうか」
目を丸くして、春日を見つめる。
つうかそんなに喋れたんだな。
「それに目付きがあんまり良くないのに笑うとかわいいところとか、大きい手とか、」
「ストップ。そろそろ戻ろうぜ」
止めないとどこまでいくのかわからん。
何だか目立っているようだし、そろそろ夕食である。
「そうっすね。夕食後に買って来たケーキ、食べましょう」
「まさかの!」
「っすねー。せっかく救世主立候補したのに及川先輩カワイソウっす」
ケーキの味がイマイチで、気分転換にと貴人は散歩に。
春日は奥の女子部屋で休んでいる。
部屋には滋郎と真琴の2人のみ。
春日の、それ、貴人のことだよね?的な語りを聞き、二人は突っ込みたくて仕方がなかった。
「えーでもフジムねー。まぁ中学の時は結構モテてたけどさぁ。まだ二ヶ月くらいなのに、意外に惚れっぽい?」
「あー、いや。たぶんもっと前からっすよ。春日さん、たまご工房の常連っすから」
「え!?」
真琴は驚いてテーブルに身を乗り出した。
「フジム先輩は覚えてないかもしれないっす。確か前に転びそうになった女の子をキャッチしたことがあって、それが春日さんだったと思うんすよね」
「へー……何それ少女漫画みたい。ていうかミッチー知らないよね。バレないようにしないとかわいそすぎる……!」
「そうっすね。及川先輩には頑張ってもらわないと」
当事者丸無視の恋愛トークである。
いたところで止められない気もするが。
「マコ先輩は? ないんすか?」
「興味ない」
一刀両断である。
真琴は本気で興味がなく、交際歴どころか初恋?何それと鼻で笑うような状態だ。
「まぁ俺も興味ないっすけどね」
「2次元だけで良いって?」
「その通りっす。その2次元も見れなくなっちゃいましたけど」
残念そうに溜息を吐く。
滋郎はどこまでも滋郎である。