0-05 魔法……?
エディに頼んでみた調味料が届いた。
探している醤油や味噌の特徴を口頭で説明できるはずもなく。
“この世界に存在する調味料をすべて”取り寄せてくれたらしい。
ずらりと並ぶ、調味料。
並ぶなんてものじゃないけど。
箱に詰め込まれてるけど。
「どんだけだよ」
「研究のし甲斐があるじゃないっすか」
滋郎は何故か楽しそうだ。
そしてエディには料理人を目指すと思われているようだ。
あながち間違いでもないが。
まずはひとつ開封し、ぺろりと舐めてみる。
オイスターソースっぽい?
炒め物にしてみるか。
炒め物向きそうな根菜や葉菜を手に取り、下拵えする。
「フライパンがない」
そうか、調理器具も違うのか。
同じものも多いが、見たことのないものもある。
そういえば箸も出て来たことないもんな。
道具も色々頼んでみるか。
出世払いだ、出世払い。
とりあえずフライパンは両手鍋でいいか。
鍋を熱し、油を敷く。
素材をいれ、炒める。
火が通ったところで調味料投入。
「よし、うん、普通」
ごく普通の炒め物が出来上がり。
若干中華風といえば中華風。
この分だと道のりは遠そうだ。
箱詰めの調味料を見て、溜息を吐いた。
「それでは今日から魔法の練習をしましょう」
「キター!」
「待ってましたぁ!」
滋郎と真琴のテンションが高い。
うぜぇ。
魔法の練習ということで、場所はいつもの部屋ではなく訓練場である。
「今回はもう一人、講師を頼んでいます」
エディに呼ばれ、入ってきたのは“魔女”リゲルだった。
あの夜わからなかった髪の色は、銀。
光の加減によっては白っぽく見える。
濃い灰色のローブが“魔女”らしい。
「“魔女”……」
ぽつりと春日が呟く。
その表情は暗い。
「へー、“魔女”が講師?」
『リゲル・ノーグだ。リゲルと呼んでくれ』
真っ直ぐに真琴を見てリゲルが言う。
「ま、責めても仕方ないしね。『私は真琴。マコって呼んで! よろしく、リゲル!』
肩を竦め、笑顔を見せる。
裏のない笑顔。
『宮尾滋郎っす』
『春日です。よろしくお願いします』
リゲルと目が合った。
真琴が不思議そうに見ている。
あぁ、自己紹介しないからか。
『髪の毛、銀色』
『あぁ。前にあったときは暗かったからか』
『綺麗』
『は……』
リゲルが目を瞠る。
その様子を見ていた滋郎たちも驚きの表情で2人を見た。
『……キイトの髪も、綺麗だ。夜の色で』
リゲルがはにかむ。
やばい。
かわいい。
「うわぁ……フジムが誑し込んでる」
「珍しいっすね」
誑し込んでるなんて失礼な。
正直に、本心しか言っていないのに。
「……あの、とりあえず魔法の授業、始めても良いでしょうか」
エディが苦笑いでつぶやいた。
魔法の授業が始まった。
魔法には分類がある。
攻撃系魔法や防御系魔法、補助系魔法など、属性とはまた別の分類である。
まずは難易度の低いもの、簡単な攻撃と防御からということだ。
初歩の初歩の魔法は掌もしくは指先で、自分の属性の魔法を出現させるというもの。
「水にしましょうか。ここにいる6人全員の共通属性ですし」
エディが掌を上に向けた。
注視する。
「Щ」
水の塊が出現する。
液体なのでそれが流れ落ちる様子を黙って見ていた。
「……ちょっと待って」
「何でしょうか」
「今の、何?」
真琴がふるふると震え、問う。
エディは質問の意図がわからず、首を傾げながら答える。
「水の基礎魔法ですが……?」
「そうじゃなくて! 何今の、呪文なの!?」
「え? 呪文?」
「そうっすよ! 何すか今の! もっとこう! ね!?」
ねって。
「今のは水の出現を表す魔記号ですが」
「魔記号?」
「えぇ。魔法に魔記号は欠かせません」
「……期待外れもいいとこだわ」
「ちっ。つまんないっす」
「お前ら話進まねぇだろうが」
「っす」
ゲームや漫画でよく見掛ける、長い呪文を唱えるものを想像し、期待していたらしい。
「気を取り直して……Щ/Ю」
「…………」
真琴の顔がひどいことになっている。
お前女だろ。
「これが出現した魔法をその場に留める魔記号です」
水は流れ落ちず、エディの掌にある。
「留められる時間は魔力の流し方や量によって変わります。個人によっても違うので色々試してみるしかありません」
水が消えた。
エディがまた新しく魔記号を呟く。
「Щ/Ю;Г」
掌の水が放出される。
「あ、駄目っす。イラっとして来た」
「抑えろ滋郎」
滋郎は夢が壊れたせいか苛立っている。
普段へらへらしているが意外と短気だ。
「今のは留めた魔法を飛ばす魔記号です。方向は魔力を流した方向と逆に行きます」
「次は……リゲル」
『どうぞ』
「Щ/Ю:Г」
『re;Щ』
「これが防御ですね。魔記号は順番を入れ替えたり省略することで違う魔法になったり、効果が変わらなかったり色々ですが、最初はまず基本的な魔記号を覚えることから始めましょうね」
面倒になってきたんだが。
これは避けられないのだろうか。
子供でも魔法が使える世界だと言っていたので避けられないんだろうなぁ……。
エディやリゲルに見てもらいつつ、魔法の練習を始める。
「Щ/Ю」
意外と難易度は低いらしい。
子供も使えるので当たり前なのかもしれないが、しかし魔法のない世界から来た身としては感動モノである。
別に魔法にあこがれも何もなかったが、これは中々。
基本はЩの部分を他の属性の魔記号に変えるだけだ。
それぞれの属性の魔記号を教えてもらい、練習する。
全員難なく魔法の基本を習得した。
咄嗟に使えるかは別であるが。
練習風景を見て何を思ったのか、夕食後、滋郎が唐突に話を切り出した。
「フジム先輩リゲルさんが好きなんすか?」
何故。
「いや好きっていうか……まぁ、正直なところ見た目は好みだ」
嘘ではない。
きつめの顔立ちなのに笑うとかわいいなんてモロ好みだ。
「…………」
「ちょ、フジム、春日チャンひいてるじゃん!」
「何でだよ、正直に答えただけだろ。大体中身が云々っつってもまず見た目からじゃん」
見た目が受け付けないと中身も見えないだろ。
「え、そんなことないでしょ」
「いやお前、いくら中身良くても小学生とかじいさんとか好きになることないだろ?」
性別、年齢を含み見た目の第一印象は大切だと思う。
それにどんだけ美人でも不潔だったらひくだろうし。
「そりゃあ、まぁ、そうだけど……」
「っていうか“魔女”は老女じゃないんすか」
確かに700歳は老女だろうが。
「見た目は若いから良いんじゃね。つか見た目は好みだけど好きとは言ってないだろ」
「えー……」
つうか何だこの会話。
色々おかしいぞ。