4-07 表側
戦場に赴く騎士たちが、国境沿いに集合した。
「え、こんなに少ないの?」
その人数の少なさにマコトは驚きの声を上げた。
騎士の数は百人もいないのではないだろうか。
王宮騎士、警備隊、討伐隊、精霊の巫女や魔術師と、国中選りすぐり少数精鋭だというが、それにしても。
「大丈夫ー、こっちには救世主がいるんだから」
「いやいやいやいや」
救世主すなわちみっちー。
訓練したとはいえ、普通の高校生だ。
剣道経験者で良い成績を残しているとはいえ、それと戦争は別物だと思う。
「英雄の導きだから大丈夫ー」
リゲルの言っていた英雄の書か。
だがそれも確実な未来ではないはずだ。
「ま、よろしくねー。ノルマンド・ディスカ、討伐隊の代表だよ」
マコトは救世主とともに作戦を教えられる。
作戦ってこんなぎりぎりに伝えられるものなのか。
普通もっと事前に叩き込むものなのではないだろうか。
釈然としないまま、マコトは作戦に耳を傾ける。
まず総指揮はクオル・ロアがとる。
クオルは魔術師の中で唯一攻撃に向いている人物らしい。
自身で防御、治癒も可能、そして飛龍にも乗れることで、総指揮に任命されたようだ。
攻撃の要である前線に、救世主とマコトが組み込まれている。
特攻に討伐隊、次いで王宮騎士、警備隊となる。
王宮騎士の代表はランル。
爪竜に騎乗し、長剣や槍を装備。
警備隊の代表はフレネス。
跳竜に騎乗し、槍や弓を装備。
後方に控える魔術師の代表はエディ。
魔術師は防御魔術を担当する。
その後ろに精霊の巫女が待機し、治癒を担当。
「っていうか討伐隊、少なくない……?」
特攻が一桁?
どう考えても捨て身である。
「まだ集合してないとか……」
「まっさかー! いくら遅刻の多い討伐隊でもこんなシリアスな場面で遅刻なんてしないよー!」
シリアスな場面とかその口調とか、まったくシリアスにならない騎士である。
「大丈夫ー! 君らはその鎧に守られてるからー」
マコトと救世主は赤く輝く鎧を身に着けている。
今回の戦争のためにリゲルが作り上げたものらしい。
赤は英雄の色。
エトランの色ともされる赤は縁起が良いというか、力があるとされているらしく、鎧も赤にしたらしい。
「来たわよ! 全員位置について!!」
上空よりクオルの声が響いた。
「突撃!」
ノルマンドの号令に走り出す走竜たち。
その数、五十頭。
討伐隊の人数、その数一桁。
え、なにこれ。
マコトは呆然と戦場を見た。
メンティの騎士たちを次々に戦闘不能にしていく討伐隊の面々と走竜。
魔術のエトランといわれるだけあって、防御魔術は強力。
討伐隊に怪我はほとんどない。
だが魔術師たちの魔力が尽きればそれも終了となるので、勝負は早く着くほど良い。
「マコト、私たちもいくぞ」
促され、爪竜を進める。
討伐隊によって拓かれた道を進み、敵陣へ乗り込む。
「っていうか……走竜……」
戦闘用の走竜は騎手不在のまま、騎士数人分の活躍を見せていた。
「戦闘用ってそういう意味……」
予想外である。
走竜強い。
メンティのトップまで行き着くのは簡単だった。
あっけなさすぎて驚きだ。
何というかメンティにヤル気が感じられない。
不自然なほど。
何かの罠なのかと疑う。
「早良、やるぞ」
「了解」
救世主の合図で、マコトは長剣を掲げた。
光と炎の剣。
それがマコトの武器の名前だ。
この武器の特殊効果に、詠唱なんて必要ない。
ただ願うだけ。
それが精霊の武器を初めて手にした日、教えられた使い方。
使い方ですらないような気がするが。
剣が眩い光を放つ。
そして炎を纏う。
この戦争でのマコトの役目は救世主の防御だ。
救世主の武器には長い詠唱が必要。
無防備になってしまうその間、マコトは救世主を護る。
救世主が胸の前で水平に剣を構えた。
「 ≪我に応えよ――≫ 」
マコトの武器よりも救世主の武器の方が強力だ。
見た目は地味だが効果は高い。
むしろ一人で勝てるんじゃ、と思えるほどの反則ぶり。
もちろん長い詠唱が終わるまでの防御もあるので、実際に一人だと使い勝手が悪いのだが。
「≪――我が心を乙女に捧げる――≫」
「ぶはっ」
救世主の詠唱にマコトはつい噴き出した。
詠唱は全体的にミナミに捧げるラブレターみたいになっているのだ。
もちろん詠唱は救世主が考えたわけではないので、まったくの偶然である。
耳まで赤くした救世主は何とか詠唱を終える。
「≪――跪け、愚民共!≫」
光と大地の剣をその地に突き刺す。
そして敵側は一斉に平伏した。