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4-06 七日目




喧嘩は基本、先手必勝である。

「З/Ю:Ж;Г」

正しく魔記号を唱えたはずが、何の現象も起こらなかった。

「З/Ю:Ж;Г」

やはり結果は同じ。

「くっくっく……エトランの魔術師も大したことはありませんね。この宮殿では魔力封じの魔術が掛けられているのですよ!」

高らかにそう宣言する魔術師。

「もちろん私は別ですがねぇっ! З/Ю:Ж;Г」

ジローが唱えたものと同じ魔記号。

風の刃が勢いよく飛んでくる。

ジローはそれを躱し、思案した。

考えたところでどうしようもない。

魔法が駄目なら肉弾戦だろう。

「 ≪来たれ――≫ 」

魔術師が何かを喚んだ。

現れたのは二メートルほどの二足歩行の魔物。

青い肌に腰蓑と棍棒の装備。

ごつごつとしたマッチョ風の体つき。

「俺なんか変なものに当たりすぎだと思うんすよね……」

どうせならピクシーとかピクシーとかピクシーとか。

ぶつぶつ呟きながらメイスを構える。

メイスでよかった。

武器がロッドだったらつんでいただろう。

「……あ、まずいっす。早く処理して先輩に追いつかないと」

リゲルに短剣を貸したままのキイトの武器は銃剣のみ。

銃剣は魔力を使用する武器だ。

キイトは宮殿内で魔法が使えないことを知らないはずだ。

他に敵がいなければ良いが、少なくとも魔術師はもう一人いる。

向かって来た棍棒をメイスで受け流す。

「ぐっ」

見た目通りすごい力だ。

純粋な力比べなど勝てるはずもない。

加えて魔法も使えない。

「ちっ」

魔力封じが効かないのはなぜだ?

特殊な装備品? それとも予防系の魔術?

どちらにせよ今のジローにはわかるはずもない。

幸い速さではジローが勝っている。

メイスで思いっきり殴れば当たる。

ただダメージがほぼないだけだ。

「持久力とか勝てる気がしない……!」

筋力も体力も魔物に勝てるわけがない。

「くくく……留めです! З/Ю:Ж;Г!」

「うわー何かウザい!」

「Я;Я;Я」

辛うじて避けながら、距離を詰めていく。

魔物が無理なら魔術師から叩こう作戦。

それに気付いたのか魔物が魔術師の盾になった。

「うざ!」

魔物は棍棒でメイスを受け止めようとしている。

ジローは咄嗟にメイスの持ち手、その下部を開けた。

「はっ!?」

魔術師が目を瞠る。

下部から飛び出た突起を、魔物の喉元を目掛け、突く。

青い血飛沫を撒き散らしながら魔物は絶命した。

呆気ない。

呆気なくて助かった。

ジローのメイスは、一般的なものと違い、持ち手に細工がしてあった。

通常攻撃はもちろん打撃だ。

しかし持ち手部分に恐ろしく切れ味の良い刃物が仕込んである。

この部分は単純に細工なので魔力は関係なかったのだ。

他にも魔力を使う細工は多々あるのだが、どうせ今は使えないので割愛する。

とにかく魔物が終わったので次は魔術師だ。

さてどうしよう。

メイスで殴れば死ぬ危険もある。

よしとりあえず黙らせよう。

声が出なければ魔記号も唱えられない。

もちろん刃物で喉を切り裂く――わけはなく。

メイスで足元を狙う。

転倒した魔術師にすかさず馬乗りになり、拳で数発殴る。

折れた歯や血を吐いている隙にカーテンを破り、猿轡をかませる。

そのまま拘束。

「これでオッケー」

念の為に全裸に剥いた。

「これのどれかが魔力封じ防止っすかね」

試しながら廊下を走り、ジローはキイトを探し始めた。





「あ、コマイだ!」

タロが嬉しそうに世話役の名前を呼んだ。

キイトの走る廊下の前方にコマイが立ちはだかっている。

回れ右したい。

しかし背中を見せるにもマズイか。

キイトは立ち止まり、話し合いを試みる。

「どうも」

まずは挨拶か。

そもそもコマイが何を狙って行動しているのか、キイトにはまったくわからないのだ。

「えーっと……精霊の呪なら巫女が浄化してるんだけど」

コマイは何も言わず杖をキイトに向けた。

「……タロ抱えてるからやめてほしいんだけど」

タロを巻き込むつもりなのか、コマイは笑っている。

「今頃エトランは我が国のもの」

「は?」

「この国の惨状は見たでしょう」

確かに道中、呪の被害で荒れてはいたが。

「この地に住むのは難しい。我らには新たな地が必要です」

「いや復興しろよ」

呪は浄化される。

自分の国に愛着はないのか。

とりあえずタロをおろし、下がっているように言う。

おとなしく言うとおりにする。

賢いな。

「そんな費用、どこから?」

それは知らない。

復興にかかる費用も、労力も、キイトには想像出来ない。

「エトランが手に入れば、何の問題もないっ!」

「それでエトランの人はどうなんの?」

双方問題なく平和に暮らせるならば、それも良いのかもと思わないでもないが。

戦争でそんなうまくまとまるものではないだろう。

「我が国のために犠牲になってもらいます!」

「知るかっつうの!」

銃剣を構え、撃つ。

「……あ?」

出ない。

「珍しいものをお持ちですね……魔動具ですか。さすがエトランの魔術師」

「いや魔術師じゃねぇし」

「だがしかし! この宮殿では魔力は使えない!」

「人の話聞いてねぇな。別にいいけど」

「この魔動具さえあれば使えますけどね!」

高らかに宣言。

何で悪役って自分が不利になる情報を自分からぺらぺらしゃべるんだろう。

要するにあのブレスレットらしきものを奪えば良い、と。

「先手必勝!」

振りかぶって、投げました。

魔光石を。



かわいそうな魔術師は、悶絶している。

「ナイスコントロール。元野球部舐めんなよ」

ダッシュでブレスレットを奪い取り、装着。

銃剣を発動させる。

「よし、まだやる?」

返事はない。

魔術師コマイは悶絶している。

「悪ぃ、わざと狙ったけど、ごめんな?」

いやだって魔光石一個しかなかったし。

一撃必殺って急所そこしかないし。

……うん、ごめん。



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