4-04 四日目~七日目
四日目
日が暮れて腹も減ってきたので夕食にした。
魔法で水を出し、それを魔術で加熱し、簡単なわかめスープを作る。
それに竹の皮のようなもので包まれた米。
街で購入したものだが、おこわのようで美味しい。
「そういえば今日で四日目か」
「あ、今日出発したことになってるんすよね」
ターシャに伝えた出発日は今日。
リゲルの見解ではあと三日前後で戦争が始まる。
翌日から戦闘する可能性が高くなるというころで、最後に宿に泊まることになった。
検問所手前の小さな村。
深夜だというのに迎え入れてくれて、優しいひとたちだ。
この世界に来て、悪人らしい悪人など見たことがない。
ツインを二部屋借り、もちろん男女で別れる。
温泉はなかったが、風呂は存在したのでじっくりと入浴した。
風呂から上がり、ベッドの上で大の字に寝転ぶ。
この先は決着がつくまで宿に泊まることはない。
そう思うと少々億劫だ。
「いよいよっすねー。春日さん、大丈夫っすかね」
「何か精神弱そうだもんなぁ」
討伐の時もあれほど気分が悪そうだったのだ。
今回は討伐ではなく浄化とはいえ、魔物に対峙することは変わりない。
「精霊以外寄って来なければ良いんすけどね」
他の魔物に攻撃されれば、応戦することになる。
そうなればもちろん殺すことになるだろうし、それを見てミナミの気分が悪くなるのは想像に容易い。
「めんどくせぇ」
「先輩ひどいっす」
想像し、漏れた本音にジローが突っ込む。
「っつわれてもなぁ」
「もうちょっと春日さんに優しくしてやってほしいっす……女の子なんで」
そんなこと言われても。
「先輩って本当興味のあるなしがはっきりしてるっていうか」
好きか嫌いか、どうでもいいか。
キイトにとって大半はどうでもいいに分類される。
どうでもいい人間は、きっとすぐに忘れてしまう。
現に小中学校のクラスメイトなんて、半分も覚えていない。
元の世界に帰ったらそのうち忘れるのだろう。
さすがにジローとマコトのことは忘れないと思うが。
五日目
宿で朝食を済ませ、買い物をする。
最後の補給になる可能性があるので、かなりの量を買い込んだ。
そのままステープを抜け、大陸の西側に入る。
検問所を抜け、途中までは街道を走り、途中から脇道に入るらしい。
脇道に入ると、少しずつ魔物を見かけるようになった。
好戦的な魔物は少ないようで、戦闘は今のところない。
好戦的でも走竜よりも弱い魔物は、さすがに襲ってこないようだ。
草食とはいえ走竜も中々強い。
竜車の中で出来る簡単な調理で食事をすませつつ、ひたすら走る。
魔物を警戒しながら走っているので、街道沿いを走っていた時に比べれば暇という感じではない。
雑談くらいはするものの、時の魔術の練習はお預け。
疲労が募り肝心な時に闘えないなんて事態は遠慮したい。
ミナミは緊張しているのか、いつも以上に口数が少なく、食欲も減退しているようだ。
「春日、食える時に食っとけよ。腹が減っては戦が出来ぬっていうだろ」
呪の浄化をするのはミナミである。
この旅のメインはミナミなのだ。
「先輩その言葉好きっすね」
キイトが好きなわけではなく、姉の志麻がよく言うので移ったのだ。
「そういえば貴志さんもよく言ってましたけど」
「あー、元々姉貴がな」
姉は寝坊が多いが、朝食を抜かない。
遅刻するから食うな、早く行けというと、決まってこのセリフを返されていた。
懐かしい。
会いたい、帰りたいといった気持ちは膨らむが、それでもリゲルか離れる気はない。
走竜は夜目が利くので止まることなく突き進む。
向かってくる魔物だけ竜車から魔法で討ち、スピードを落とさぬまま順調に進んだ。
七日目
六日目は順調に進み、七日目。
予想ではそろそろ戦争開始だ。
竜車は現在、メンティの隣の国を走っている。
元々街道を逸れたのはメンティの戦争の関係で検問所が厳しいかもしれない、という理由だ。
平和ボケしている西側と違い、メンティ付近はさすがに警戒態勢だろうと。
ちらちらと雪が降っている。
竜車の中は暖かいので外の気温はわからない。
「戦争って及川も行くんだよな?」
「あぁ。マコトもな」
「マコも? 何で?」
確かに騎士の訓練には参加しているが、救世主扱いではない。
「力を貸してほしいと頼んだんだ。エディも付いているし、大丈夫だ」
「え、エディさんって強いんですか?」
「ミナミも中々言うな。エディは防御の魔術が得意だからな。必ず護り切る」
一応、腕の良い魔術師である。
「マコト先輩と及川先輩が無事なら良いんですけど……」
「心配は無用だ。彼らは必ずやってくれる」
「すげぇ自信満々なんだけど……何かあんの?」
何もなくてこの自信だと怖すぎるんだが。
「あぁ、勿論。二人が負傷することはない」
二人が、というところが限定的で引っ掛かる。
「おっと。魔物が近づいてくるな」
雑談を中断し、二人は窓から魔法を放ち始めた。