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4-02 二日目~三日目



二日目


眠っていたリゲルが目を覚まし御者台に出たことで、竜車にはジローとミナミが残された。

ジローは黙々とメモに何か書き込んでおり、ミナミはぼんやりと外を眺めた。

窓の外を流れる景色はとてものどかだ。

トーカは膝の上で丸くなっている。

時折しゅうっと声が漏れるのだが、これは寝息なのだろうか。

ジローとミナミの間に会話はなく、居心地は悪い。

科は違うが店でも見たことはあるし、名前と顔くらいは知っているのだが。

「あ……えっと、もうすぐ、帰れるね」

とにかくミナミは沈黙を破りたくて、思いついた言葉を発した。

「そっすねー。良かったっすね」

ジローのその言葉は、何となく他人事のように聞こえる。

「……宮尾くんは、うれしくないの?」

「こっちの世界の方がおもしろいっす」

きっぱりと言い切ったジローに、ミナミは不思議に思う。

確かに魔法のある世界なんて、ジローのように漫画やゲームが好きな人から見ればおもしろいのかもしれない。

だがそれでも、家族や友達、何だかんだで元の世界への未練はあると思う。

望郷の念、ホームシック、言葉は何でも良い。

帰りたいとは思っていないのだろうか。

「春日さんこそ、いいんすか? 帰る前に告らなくて」

「え?」

ミナミは言われた言葉を一瞬理解出来なかった。

「あ……」

ジローが知っていることに気付き、俯いた。

「先輩は帰らないだろうから、帰る前に言わないとそれっきりっすよ」

「それは……」

わかっている。

キイトはリゲルがいる以上、この世界から帰る気はないだろう。

ミナミが告白したところで、キイトがミナミを好きになることはないし、元の世界に帰ることもない。

何も、変わらない。

「言わなきゃ視界にも入れない」

「え?」

ミナミは心臓が軋んだ気がした。

「先輩、興味ないものは視界にも入れないっすからね」

確かにそれはミナミも感じていた。

まっすぐだからこそ、要らないものは目に入らない。

必要ないものには見向きもしない。

「今の春日さんは先輩の視界にすら入ってない」

それは本当のことだと思う。

だけどそれをジローに言われるのは、違う。

言われたくない。

だけどその感情をジローにぶつけることは出来ず、ミナミはただ押し黙った。


間もなくリダインの検問所に到着した。

検問所の出口は二つあり、大陸外海沿いの国と大陸内海沿いの国の分岐点となる。

竜車は内海沿い、フロウに進む。

フロウは内海沿いに細長い国である。

面積にすると広くないが、長さで言えば大陸一だ。

竜車を走らせながら昼食を摂る。

走竜ランドラはまとめ食いが出来るようで、まだ食べなくても大丈夫らしい。

空腹や疲労を感じると訴えてくるので、その時に休憩を取る予定だ。

昼食後は昼寝したり景色を見たり話をしたり。

暇つぶしの道具などはなく、正直なところ暇である。

ジローだけはひたすら何か書き続けているのだが。

「何書いてんの」

「魔動具のアイデアとかっす」

メモには小さな字がびっしりと並び、ところどころイラストが挿入されている。

「次は何?」

「そうっすねぇ、ゲーム欲しいっす」

「ゲームってお前、難しくないか?」

ジローがいうゲームはもちろんテレビゲームの類であり、ボードゲームではない。

テレビもないし、パソコンもない。

部品ひとつ存在しないような世界だ。

どれだけ時間を掛ける気なのか。

「何か良い魔術があんの?」

転写の魔術はあるが、動画ではない。

「まったくないっす。まぁいずれ、なのでまずは映像、っすかね」

「やるのは自由だけど時間足りないだろ。その前に小説とか漫画にしようぜ」

「まぁそうなんすけどねー。漫画は広めたいっすよね」

そもそも小説の挿絵すらないのに漫画を広めよう、というのも中々難易度が高い気がする。

逆に新鮮で受ける、という可能性もあるが。

「最初は四コマか? 読みやすさ重視で」

「そうっすねー。ってそれもいいっすけど漫画は魔術使わないっすよ……何か欲しいものないっすか? あ、パイローラーとかトリティコとかブラストチラーとか」

「あぁいいなぁ。機械あると大分楽になる」

ああでもない、こうでもないと魔術の組み合わせを考える。

話し合っているうちに時間は過ぎ、いつの間にか辺りは暗い。

走竜ランドラたちの休憩のため、街道沿いの平地に竜車を止める。

リゲルが用意していたアカの実を与え、今日はここで野営することになった。

リゲルとミナミが竜車の中、男二人は外。

お決まりの焚き火を準備、火の番と魔物の見張りでキイトとジローは不眠である。

もともと野営の跡があり、焚火の準備は簡単だった。

薪なんかも残していく習慣があるようで、それが“普通”と聞くと、平和だなと思う。

ウナカーサ大陸の西側は特に平和なのだそうだ。


三日目


これといって何もなく、夜が明けた。

何もなさ過ぎて暇すぎる。

どうにかしてほしい。

浄化の魔術があるので衛生的に問題はないが、気分的に違うだろう、と村に立ち寄る。

有名な温泉地らしく、温泉に入ることになったのだ。

温泉バンザイ。

竜車に長時間乗っているので体がバキバキする。

温泉から出たら次は食事だ。

村唯一の食堂で名物らしい粥を注文。

薄い小豆色の粥だ。

どう見ても小豆入り。

赤飯の粥バージョンだな、と匙で掬い口に運ぶ。

塩味が効いており、旨い。

寒い季節、やはり温かい料理が食べたくなる。

しかも米。

ポイント高い。

鍋ものが食べたい。

「あ。魔動具の前に調理器具だ」

フライパンや中華鍋、土鍋。

ケーキの型もいろいろ欲しいものがある。

エトランに流通していないだけなのか、存在すらしないのかはわからないが。

「あ、炊飯器。炊飯器が欲しい」

「いいっすね!」

麺もパンも好きだが、やはり一番食べ慣れているのは米だ。

鍋でも炊けるがやはり面倒である。

「じゃあ次は炊飯器にしましょう! 完全私物のみになりそうっすけど」

確かに、販売しても全然売れないだろう。

そもそもエトランには米を炊いて食べる習慣がない。

スープやサラダの具として少量使われる程度である。

この国であれば売れるかもしれないが。

小豆や大豆の豆類と海藻、米などを買い、村を出る。

また長時間竜車の旅か。

考えるだけで腰が痛い。



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