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ノーグ・コンフェクショナリー  作者: クドウ
大陸暦760年 エトラン
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0-03 そうだ町に行こう

「って、またこれかよ!」


どうやらこの薄塩シリアルもどき、朝食の定番らしい。

勘弁してくれ。


「あー、エディさん? 明日から朝食変えてもらえないっすか?」


先輩の我慢がきかないようです、と続ける。

失礼な。

だが事実なので否定はしない。


「どんな朝食が良いのですか?」


「うちはパンだなぁ。トーストに目玉焼き、ベーコンと野菜とか」


「あー、俺んちもパンっすね。って言っても総菜パン1個置いてあるだけっすけど」


真琴と滋郎はパン食か。


「あー、白米と味噌汁に弁当のおかずの残りとか」


学校に弁当を持参していたため、どうしてもおかずが残る。

基本的に朝はそれを食べ、おかずが少ない場合は何か足す。

さすがに自分一人のためだけにわざわざ朝食を作るのは面倒だった。

朝からバイトの時はバイト先で賄いが出るので問題なかったし。


「米でもパンでも良い。これだけは止めてくれ……」


シリアルもどきを指差して言った。

エディは楽しそうに笑いながら頷く。


「明日から違うものにしましょう。では朝食後、魔法の適性を調べた部屋でお待ちしております」




1日みっちり勉強した。

言葉は勿論、時間の概念や時計の読み方、周辺の地理、簡単な歴史など。


暦は現在大陸歴760年。

これは“アカの英雄”と“魔女”の出現の年らしい。


「何ソレ?」


「……フジムは見てなかっただろうけど、魔女はいたわよ。私たちを召喚した人でもあるし」


うん、覚えてない。

魔女という単語には聞き覚えがあるが。


「同じ年くらいに見える女の人っすよ。実際は760年以上生きてるらしいっすけど」


「は? この世界ってそんな長生きなわけ?」


「いや魔女だけらしいっす。何でも“精霊の血”を浴びたせいだとか。で、“アカの英雄”っていうのが魔女の師っす。この人はもういないみたいっすけど」


大陸で一番長命な魔女の出現から760年。

あれか、キリストみたいなものか。

しかし精霊。

またファンタジーというかメルヘンな単語が出て来たな。


「不老不死らしいよ。何かあったら魔女に聞け、っていうのがこの国のやり方みたい。つまり私たちの召喚もそういうこと。迷惑な話よね」


逆に魔女さえ味方につければってことか。

帰れない以上、別に国と敵対しているわけでもないしその必要はないわけだが。

大変そうな立場だな、と漠然と思った。





この世界に来て数日が経った。

1日みっちり勉強でかなり疲れる。

運動不足解消のため、訓練場の出入りも解禁となった。

アスレチックのようなものもあり、わりと楽しめる。

何より娯楽がないことがつらい。

元の世界ではバイト三昧でテレビもあまり見なかったが、まったくないとなると逆に見たくなる。

そうなってくると簡単に出来そうなボードゲームの作成に手が出る。

主に真琴が欲しがり、滋郎が作るのだが。

滋郎は元々手先が器用で時計やペンを解体したりもしていた。

いずれ開発系を体験したいっす……とにやにや呟いていた。

意味がわからん。


もう少ししたら週に何日かは休みになり、自由に行動出来るらしい。

それから語学の授業は大分減り、魔法の授業が始まる予定だ。

滋郎がものすごく嬉しそうなのは分かり切っていたことだが、意外にも真琴が楽しみにしているようだ。

一度訓練の見学に行ったのだが、及川はすでに魔法を使える。

エディは素質がある、天才だと誉めちぎっていた。

いや楽しそうで何より。


自由行動が出来るようになったら、城下町で食べ歩きしたい。

この世界のケーキ屋とかもの凄く興味がある。

城下町だけでケーキ屋が5店舗以上、カフェも数軒あると聞いた。

人口が数千人の町としては多い方なのではないだろうか。


元々ケーキ屋の家に生まれ幼少の頃から手伝っており、両親が亡くなり店を畳んでからは歳の離れた兄の店で働いていた。

兄の店は養鶏場である義姉の実家の卵を売りにしていた。

ケーキ屋なのだがイートインも出来、そちらではランチセットもあった。

バイトは主にケーキ製造だったのだが、ランチのピークには料理も担当していた。

滋郎の担当はケーキ製造と接客である。


「先輩、俺も行きたいっす」


「そうだな。最初は皆で行った方が良いかもな」


そうでもしないと春日は引き篭もりそうだし。

共通語の学習は春日が一番進んでいる。

さすが英語科。

しかし積極性がないので会話が出来ているかといえば出来ていないような気がする。

逆に一番進んでいない真琴が一番会話が出来ているのではないだろうか。

さすが積極性のカタマリ。

真琴は部屋付きのメイドに翻訳機を外してもらってまで実地で勉強する徹底振り。

なのに何故か授業は身につかないというところが真琴らしい。


「食べ歩きもいいけど買い物したーい!」


真琴の訴えに春日も頷く。


「服とか小物とか色々見たいです」


女の子だな。


「俺武器屋とか行ってみたいっす」


滋郎は堪能しすぎだよな。




早速エディに話したところ、エディ引率で町見学に行くことになった。

実地で語学学習というわけだ。


城から出るのは初めてだ。

緩やかな坂道を下り、門を潜れば城下町。

人が多く、朝から活気がある。


「朝市がありますので、この時間は賑やかなんです」


通りは野菜や果物、魚介類など食べ物が多い。

板に大きく値段が書かれており、物価はわからないがどの店も人が溢れている。

パンや串焼きなどの軽食も並ぶ。

良い匂いだ。

城で朝食を食べずに出ているので腹が減っている。


「さてそれではコインをどうぞ」


コインを数枚渡される。

何かの実を刻印された、小振りな銀色。


「朝食はそれぞれ買って食べて下さい。最悪言葉が通じなかったら、コインを渡して指差せば良いですから」


何て無茶振り。

鬼か。

この人混みの中放り出すか普通。

エディからだと魔力感知でそれぞれの所在地がわかるので問題ないらしいが……。

そういう問題か?




コインを持って軒先を覗く。


「ホットドックっぽいな」


板に2と書かれてあるので、おそらくコイン2枚だろう。


『ひとつください』


『はいよ。――と――――どっちが良い?』


「は?」


聞き取れなかったのか、新しい単語か。

まぁいいや。


『おまかせします』


わからなかったらこれで良いじゃん。


渡されたホットドックに齧り付く。

千切りキャベツにトマト、ローストハムに塩胡椒。

ちょっと物足りないけど旨い。

シリアルより断然旨い。


果物が並ぶ軒先でそのまま食べられる果物を教えてもらった。

明るい黄色で皮ごと食べられ、食感は洋梨のような感じがする。

ヨシの実というらしい。




朝食後合流し、女子リクエストの衣服や小物を取り扱う店へ。

日本に比べるとシンプルで落ち着いた色の服が多い。

服は支給されているので必要ないが、女子は違うらしく数点購入していた。

こういう金は城から出ているらしい。

税金か?

真琴は出世払いだと言っていたが。


滋郎のリクエストでもある武器屋にも寄る。

城の武器庫にあるもので十分だ。

買う必要はない。

しかし値段の高さや武器の重さにはしゃぐ一同。

呆れつつ見守るエディ。


昼食は生パスタだった。

聞けば乾麺はあまり普及していないらしい。

魔法の発達で早くから冷蔵庫もどきがあり、食品の保存に関して不便がなかったからだろう。

同じ理由で保存食の種類が少ない。


クリームを和えた生パスタにサラダとスープ。

デザートに皿盛りのケーキ3種。


「ここのケーキは城下町で一番人気のあるお店のものなんですよ」


店で出すケーキを違うケーキ屋から仕入れることはわりとよくあるが、こちらでもよくあるのだろうか。


「あとでそちらのお店にも行ってみましょうか」


それはぜひとも。











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