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3-05 予兆




魔動力式の家電の使用開始。

紙箱の使用開始。

浄化機の使用開始。

パイの実の販売開始。

売り上げも増加し、色々忙しくなって来たので、従業員も増やした。

紙の製作所と魔動力工場の兼任に三人、ケーキ屋の販売に二人。

販売の二人が仕事を覚えたら、イグレッツィオが完全に製造へ回る予定だ。

製造で従業員を入れないのは、パイのレシピの流出を防ぐためである。

今はまだ秘匿しておきたい。


「さてと……今日は冷菓にするか」

「冷菓?」

「ムースとかババロアとかゼリーとか……あんまりこっちじゃ見ないけどな」

ゼラチンの類は一応存在するが、あまり流行ってないようだ。

そもそも容器に入れて販売するケーキが見られないので当然ともいえる。

気候が涼しくクリームやバターの重いものが好まれているせいもあるだろう。

「そうですね、大通りの店で一度見かけたくらいで」

「容器がないと売り難いんだよな」

安価な透明な容器がないので、容器ごと販売するケーキは売り難い。

ガラスの牛乳瓶風容器に入ったプリンなんてかわいいと思うのだが、それだってケーキと同じくらいかそれ以上の価格である。

こちらは再利用するにしても高すぎるし、戻ってきてから仕込むわけなので数も多くいるし遣りづらいのだ。

「つうわけで、今回はビストロ用な」

ビストロで出す分には、容器は関係ない。

毎日使うわけじゃないので後日返却してもらえば良いだけだ。

まずカップの底に繰り抜いたスポンジシート。

それにアカの実で風味をつけたシロップをうつ。

その上にバニラビーンズをたっぷり入れたムース、その上にアカの実のムース。

そのまた上にアカの実のゼリーを重ねる。

あとは少しクリームを絞り、アカの実などのフルーツ、ミントの葉を飾れば完成だ。

イグレッツィオに作り方を説明しながら30個ほど作成。

冷菓のレシピはないので、量や味などは調整しながら作らなければならない。

今日はちょっと多すぎたので次回はもう少し分量を減らそう。

「グレッツが一人で製造出来るようにしとかないと、最近討伐が多いんだよなぁ」

「そうですね。不穏な空気というか」

緊急はまだ一度しかないが、討伐が増えているのだ。

期間中一度も討伐しない臨時もいるというのに、あまりにも多い。

疑問に思い訊ねたところ、どうやら魔物が活性化しているという。

戦争が近いということもあり、何か不吉な予感がするというか。

「生地はかなり多めにストックしてるけどさ……」

キイトならば一人で回せる仕事量でも、やはりグレッツだとキツイ。

経験値が違うので当たり前なのだが。

とにかくキイト不在でも店が回るように、ストックを増やすなり商品展開の工夫をするなり試行錯誤。

イグレッツィオにはまず仕上げを重点的に教えている。

「ま、とにかく、明日も討伐だしな。一応滋郎が来てくれることにはなってるけど、出来るだけグレッツががんばれよ」

「はい!」

ジローは一応朝から店に来る。

グレッツが一人で仕上げと製造をしてみて、間に合わなかったりわからなかったりしたらジローに頼る。

なのでジローも製造ではなく、開発をするために色々道具を持ち込むことになっている。




何度か討伐もこなし、顔見知りの騎士にも慣れて来た。

そのうちの一人は店の常連でもあるノルマンド・ディスカだ。

「最近魔物多いねー」

「多いな。原因てわかってんの?」

「うーん、西っていうか南っていうか……流れてきてるみたいなんだよねー」

「リダインも通ってるけど、大元はそこじゃないんだよね。リダインも最近魔物が多いってぼやいてるし」

もっと先から流れてきてるってことか。

「ま、その分ケーキ屋さんがおやつ持ってきてくれるしー」

「…………」

そこを期待されても。

いや持って来てますけども。

毎回借りるので、当番の騎士は何も言わずマサムネを回してくるようになり、現在マサムネの上である。

他の騎士たちは1から50までの走竜ランドラに乗っている。

戦闘用という話だが、キイトにはその違いがわからない。

「61番はねー、乗り手を選ぶからー」

「乗り手を選ぶ……あぁ、気性が激しいもんな」

そういえば最初威嚇されたんだっけ、と思い出す。

穏やかな生物であるはずなのでそれは珍しいことなのだろう。

「うん。乗り手っていうか……他の走竜ランドラともあんまり馴染んでないし、元々野生だから仕方ないんだけど」

「ふーん?」

「討伐に正直戦闘用は必要ないんだけど、軽い運動っていうか準備体操も兼ねてねー」

散歩代わりってことか?

たしかに竜舎にずっと繋いでおくと運動不足になりそうだが。

「あ、見えてきたー」

魔物の群れだ。

四足歩行型の茶色の大きな獣。

でかい野犬といった感じである。

素早さ注意、それと数匹で集中攻撃で来ること、肉食なことで警戒されている魔物だ。

大人数での討伐はかえって難しいことで、少数精鋭、キイトを含め十人もいない。

「さって、行くよー!」

ノルマンドの掛け声で、走竜ランドラが一斉に走り出す。

が、マサムネは違った。

「あー……うん」

スピードは一切上げず、変わらぬ歩調。

戦闘用に回されないわけだ。

いや訓練されれば命令を聞くのかもしれないが。

「マサムネ、行こうぜ」

キイトの声に反応し、走り出す。

ノルマンドじゃだめなのか。

討伐隊の隊長ではないのだが、それなりの地位にいるらしいので指示を出すことは多い。

特に今回の討伐ではリーダー役を務めている。

キイトは他のメンバーより少し遅れ、討伐に参加した。

短剣を使いたかったが、さすがにマサムネの上からだと無理がある。

ジロー印の武器で野犬もどきを撃ち抜いていく。

銃を撃つ時の反動がほとんどないのでかなり使いやすい。

マサムネも向かってきた野犬もどきを噛み殺したり、爪で切り裂いたりと善戦している。

さすが竜種。

すべて討伐を追え、皮を剥ぎ取り、身はその場で燃やす。

皮は加工され、衣服などになるらしい。

肉は臭みが強くかたすぎるので、食用には向かない。

「さーおやつだー!」

いや言うと思ったけど。

ノルマンドがリーダーって違和感があるわ。




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