3-03 プロポーズ
夜に用意したお菓子を持って、ビストロを訪ねた。
店はまだ開店していないが、店の奥が住居となっている。
「おはよう、ターシャ。これ、土産」
「え? ありがとう。タロ、良かったね」
「うん! ありがとう、おにいちゃん!」
さっそくかごの中を漁り始める。
中にはパイやクッキー、パウンドケーキなどの焼き菓子が入っている。
その中で一番のメインが、
「わあ! ぐるぐるだ!」
飴である。
やはり子供といえば棒つきキャンディ。
ぐるぐると巻いた大きな飴だ。
実際に子供が食べているところはあまり見たことがない、というか商品自体あまりない。
が、やはり子供といえば、というイメージがあるため作りたかったのだ。
自分が末っ子で親戚もなく、小さな子供が身近にいなかったので変なイメージがあるのかもしれない。
喜ぶタロの頭を撫で、コマイに挨拶した後、城に向かった。
本日店休日。
城で走竜61番・マサムネを借り、リゲルの帰省に同行する。
山を登りながら、質問を投げかける。
「そういえばさ、精霊の武器の持ち主って何か意味あんの?」
「あぁ……出し入れと特殊効果は持ち主でないと使えないんだ」
「俺のは特殊効果ないけどな」
「す、すまない」
「リゲルが謝ることじゃないと思うけど」
「いや……私も精霊の武器の製作に携わってるんだ」
「リゲルが?」
「私の生家は鍛冶をしていたからな。それに……精霊の力の付与が出来るのは私だけだ」
精霊の武器は精霊そのものが作ったわけではなく、精霊の血を浴びた人間が作ったものということか。
「リゲルは精霊扱い?」
「精霊、というより半精霊……下級の精霊というか……精霊の能力が一部与えられている」
精霊の能力。
キイトは精霊について詳しく聞いていないのでよくわからないが、おそらく不老不死がその精霊の能力なのだろう。
「精霊の能力って具体的に他に何があんの?」
「そうだな……血を浴びてから、魔力が一気に上がった。使える魔法も増えたし……当時魔術は発達してなかったからわからないが」
「へぇ……リゲルと異世界人だと比べてどうなの?」
キイトたちも魔力が高く、個人差はあるが使える魔法も多い。
「純粋に魔力だけなら同等だ。適性は個人差があるからな。私はさすがに全種は使えないし、そういう意味ではジローに勝てない。剣の技術で言えば……そうだな、おそらくミナミ以外には勝てないだろうし……」
何だか“魔女”があまりすごく感じないのだが。
「普通の刃物では私に傷一つつけることできやしない」
だからこその不老不死。
「さて、ついたな」
その言葉にマサムネはひとりで歩き出した。
木陰を陣取りゆっくりと伏せ、気持ち良さそうに目を細める。
「私達も休憩しよう」
昼食はキイトが作った。
デザートまで平らげて、お茶を飲み、寝室に引き摺り込んで一時間。
久々だったからちょっとがっついてしまった。
リゲルを腕の中に閉じ込めてまどろみ中。
細い銀色の髪を手で梳いてみたり、柔らかい部分を摘んでみたり、項にキスしてみたり。
リゲルは擽ったそうに身を捩るが、嫌がる風ではない。
このまま夕方までいちゃいちゃしていたい。
「リゲル」
でもこれは言っておかないと。
「俺、この世界に残りたい」
「な……」
「この世界に残って、リゲルとずっと一緒にいたい」
「……キイト、ありがとう」
密着しているから表情は見えない。
「だが、キイトは元の世界に戻るべきだ」
「嫌だ」
「……キイトは普通の人間だ。ずっと一緒にいることは出来ないし、元の世界に家族だっているだろう」
確かにリゲルとは寿命が違う。
そもそもリゲルは不老不死なんだから寿命はない。
元の世界に、家族に未練がないかといわれれば、それはあるに決まっている。
だがしかし、このまま元の世界に戻っても、こちらの世界に未練が残る。
どっちもどっちだ。
遺伝なのか何なのか、キイトの家系は恋愛に関して情熱的というか一直線というか。
母親は父親と駆け落ちで結婚してるし、兄も長男なのに婿養子だし、キイトが異世界で結婚しても決しておかしくない気がする。
「だから……元の世界に帰るまでで良いんだ。……そばに、いてくれ」
きゅんとした。
何かこうたまらない。
「リゲル」
「あ……」
耳朶を食む。
「俺は帰らない。寿命が違うなんて当たり前だろ。同時に死ぬなんて滅多にないんだから」
両親は事故死なので同時だが、基本夫婦同時、なんて普通の人間だってありえない。
でもだからこそ、限られた時間を一緒にすごしたいと思う。
「リゲルが寂しいっていうのなら、俺の子いっぱい産んで。俺がいなくても、家族がいる」
野球チーム作れるくらい、産めば良い。
抱きしめる腕に力を込める。
「それでも寂しいっていうのなら……俺が死ぬ前に、リゲルを殺してやるよ」
喉元を噛む。
もちろん力は入れてない。
「俺の貰った短剣は、そのためのものなんだろ」
戦闘に向かない、精霊の武器。
だけど切れ味はよく、精霊に傷をつけることが出来る短剣。
ひとりだけ、特殊効果のない理由。
戦闘には使わないから。
「俺はそのために喚ばれた?」
リゲルではなく、英雄に。