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3-02 紙箱完成



紙の箱が出来上がった。

その箱のサイドにアカの花を描く。

底にはシリアル番号も入れる。

キイトとイグレッツィオが二人掛かりで取り掛かり、数時間。

主にアカの花に時間が掛かる。

やはり印刷技術が欲しいところだ。

さてこの箱をどうするのかというと、もちろんケーキをいれるのだ。

日本のケーキ屋ならどこでも使っているような、紙の箱。

折り畳まれた薄い箱を、ケーキを入れるときに組み立てる、あの箱だ。

「これはどうするんですか? 紙の箱は高いから採算が合わないって言ってたのに」

「無料じゃなくて有料だからな」

「有料……、誰も買わないと思いますけど……」

もちろんそんなに高く売りつけたりはしない。

原価ぎりぎり程度で良いのだ。

「初回有料、次回から箱を持って来てくれればそれに入れる」

エコバッグならぬエコ箱だ。

浄化の魔術を使えば衛生的にも問題ない。

本当は木の箱でも良かったのだが、紙の方が絵が描きやすいことが一点、紙の製作所の仕事を増やすことに一点。

一応意味はあるのだ。

「俺か滋郎がいれば浄化も出来るしな」

アカの花の描かれた紙の箱は、目立つ。

歩く宣伝。

店によって色々な看板はかけられているが、ロゴの入った袋や箱の類はない。

そこそこ注目されるのでは、という狙いなのだ。

知名度大事。

ぶっちゃけ知名度が上がれば味がそこそこでも売り上げは上がる。

知名度を上げるには味も大事だが、販売方法の方が重要だと思う。

目立ったもの勝ちだ。

注目度が上がってきているこのタイミングでエコ箱の導入。

そして新商品の導入。

紙の箱が出来たことで紙コップもどきも製作してもらった。

こちらにはアイスやスムージーを入れようと考えている。

季節は秋でちょっと外れてしまったが、まずは売り上げよりも認知されること。

あとはパイに力を入れようと思っている。

あれから他店を回ってみたがパイはなかった。

パイの売り上げはあるのに他店が扱わない理由。

やはりパイのレシピが出回ってないと考えるのが妥当だろう。

いずれ出回るだろうが今のうちに売りまくり、この店発祥と謳うのも良い。

今のところはパイを買える店はここだけ、と売り出そう。

パイ生地を細めにカットし、捩じる。

それに砂糖をまぶし焼き上げたものが主流商品だ。

あとはゴマやシナモンシュガーなど、味のバリエーションを揃え、セット商品も並べる。

他にもアップルパイやパンプキンパイをホールサイズで売っていこう。

もう一つ考えているパイ商品があるのだが、こちらはまだ試作段階である。

「はー……色々知ってますよねぇ」

「まぁ、……他国出身だし、この国にない情報を持ってるわけで……ちょっと反則っぽいけど」

あまり気持ちの良いものではないが、売り上げは必要だ。

稼げなくてもカネル家で援助してくれるだろうが、いつまでもその状態で良いわけじゃない。

将来的には、家族を養うこともあるわけだし。

たぶん、きっと。


閉店した後、ビストロに商品を搬入する。

今日のデザートプレートは薄く焼いたパイにクリームを挟み、フルーツで飾るというもの。

要するにミルフィーユだ。

「こんにちはー」

「あら、こんにちは。今日の分ね、ありがとう!」

おばさんがにこにこと笑顔で迎えてくれる。

最近はターシャばかりだったので珍しい。

きょろりと店内を見渡すと、奥の席にターシャと小さい男の子と、若い男がいた。

ターシャの膝の上で男の子が美味しそうにシチューを食べている。

それを慈愛に満ちた表情でみつめるターシャ。

若い男もにこにことその様子を眺めている。

もしかして子供と元ダンナか?

さすがに声は掛けられないし、見なかったことにして立ち去ろう。

しかしせっかくの気遣いもターシャによってぶち壊された。

「あ、キイトくん! こっちこっち!」

何故呼ぶ。

渋々奥の席に近寄る。

「こんにちは、商品の搬入に来ました」

「うん、座って座って」

だから何故。

「この子、私の息子でタロよ」

「は?」

太郎?

ついもれた声は聞こえなかったようだ。

「ほらタロ、挨拶しなさい」

「……んわ」

声が小さすぎて聞き取れなかった。

先ほどまでは笑っていたのに、今は無表情だ。

緊張してるのか警戒してるのか。

「こんばんは」

「ごめんねぇ、人見知りするのよ」

なら何故呼んだ。

「タロ、このお兄ちゃんがね、ママにお菓子の作り方を教えてくれてるのよ」

なるほど。

それで呼ばれたわけか。

「あとこっち。タロの世話役のコマイ」

「コマイ・フルシャです。よろしく」

「キイト・カネルです」

手を差し出されたので握手を交わす。

金色の髪を一つに束ねた優男だ。

「えーっと、じゃあ俺はこれで」

「待って待って、ね、デザートプレート、二皿作ってくれない?」

ターシャはあまり息子から離れたくないのだろう。

他国から来ているのだとすればわからないでもない。

厨房の隅を借り、デザートプレートを仕上げる。

せっかくなのでチョコレートで男の子の好きそうな絵を描こう。

しかし乗り物もなくアニメもない世界で男の好きそうな絵って何だ。

無難にドラゴンっぽいものを描いておこう。

本格的なものは描けないので、デフォルメしたドラゴンだ。

テーブルに運ぶとタロは目を輝かせ見上げてきた。

「ありがとう、おにいちゃん!」

興奮してるのか大きな声で、今度はきちんと耳に届いた。

警戒心も薄れたのか、キイトが座ってもにこにこしている。

美味しいそうにパイを口に運ぶ。

特別子供が好きとか嫌いとかいうことはないが、やはり笑っている方がかわいいと思う。

普通仕様はコマイが食べるようだ。

「タロはいつまでこっちに?」

「明日の夜には帰るわ」

「じゃあまた明日の午前中にちょっと寄るわ」

子供といえばやはりあれだ。

さっそく準備しなくては。




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