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ノーグ・コンフェクショナリー  作者: クドウ
カネル公爵家
31/48

2-qu 初恋




初恋は、近所のケーキ屋さんで、お手伝いをしていた同い年くらいの男の子。

家族の誕生日やクリスマス、お客さんが来る時、いつもそのケーキ屋さんだった。


“パティスリー フジ”


わたしが生まれる少し前に出来たばかりの、新しいケーキ屋さん。

お母さんがそのケーキ屋さんが好きだったのだ。

小学校2、3年頃から、同い年くらいの男の子を見かけるようになった。

お母さんが、ケーキ屋さんの三番目の息子さんでみなみより一つ年上なのよ、と教えてくれた。

一生懸命がんばってお手伝いをするかっこいい男の子。

わたしはケーキ屋さんに行くのがますます楽しみになった。

お店の前を通るときもついちらちらと見てしまう。

お母さんはそんなわたしを見て笑ってた。


4年生の誕生日に、ケーキを買いに行った時。

男の子にケーキを手渡された。

今までお店側の手伝いをしたことがなかった男の子。

不思議に思ったけど、嬉しくて。

その日の夜、その理由を知った。


“みなみちゃん お誕生日 おめでとう”


定番のその文字は、今までと筆跡が違って。

あの男の子が書いたんだってわかった。

お母さんの話では、ずっと練習していて、最近書かせてもらえるようになったんだって。


たぶんそれがきっかけ。


クラスの友達に、みなみちゃんは誰が好きなの、と聞かれ思い浮かんだのはひとり。

遊んだこともない、話したこともない、男の子。


お父さんが一戸建てを購入したことで、引っ越すことになった。

中高一貫制の私立中学に入学すると同時に、お店から大分離れてしまい。

嫌だったけど、どうにもならないことだし、黙ってた。

それでも年に数回、お店にケーキを買いに連れて行ってもらって。

それだけで充分だった。

それだけで満足だった。


2年生になって、ケーキ屋さんがなくなったことを聞いた。

事故で亡くなったって。

優しいおじさんとちゃきちゃきしたおばさん。

作る人がいなくなってしまったケーキ屋さんは閉店。

一番上のお兄さんは成人してたから、兄弟だけで暮らしてるって。


お店がなかったら、もう会えない。


3年の夏、突然お母さんが言い出した。

好きな高校に行ってもいいのよ、と。

お母さんが勧めてきた高校は、色んな科のあるところ。

英語科なんていいんじゃない、と、確かにわたしは英語好きだけど。

調理科にあの男の子もいるし、なんて。

せっかく受験して中高一貫制の私立に入ったのに、とか。

入ったからってあの男の子はわたしのこと覚えてないよ、とか。

色んなこと考えたけど、わたしは。

行ってもいいの。

呟くとお母さんは笑った。

たまにはわがままくらい言いなさい、と。


違う場所でアルバイトをしてると聞いて、行ってみたり。

もうとっくに男の子、っていう感じではなくなっていて。

すごくドキドキした。

高校に入学して、よく見かけるようになって。

つい目で追ってしまったり。

アルバイト先がお兄さんのお店なこと。

高校に入って彼女がいないこと。

すごく仲のいい後輩がいること。

今まで知らなかったことをたくさん知って嬉しくて。

それだけで満足してて。


……それを今、すごく後悔してる。


もし、話しかけてたら、何か違った?

もし、告白してたら、意識してもらえてた?


藤村先輩の、リゲルさんを見る目が。

すごく、嫌。

そんな目で、表情で、他の人を見ないで欲しかった。

わたしを、見てほしかった。


リゲルさんにつけられていた、赤い痕。

それをつけたのは、きっと藤村先輩だ。


泣いちゃだめ。

人のいないところじゃなきゃ。

帰るまで、我慢しなきゃ。


「……その、リゲルさんは……なんていうか、年齢がアレだから……」

「え?」


及川先輩はすごく真剣な表情で。


「か、春日さんは、かわいいし、その、がんばれば藤村も……」

どうやら慰めてくれているみたいで。

必死に言葉を探す及川先輩がかわいくて、つい笑ってしまった。


「ありがとう、ございます」


わたしは大丈夫。

ただ想うだけなら、きっと許されるから。




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