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ノーグ・コンフェクショナリー  作者: クドウ
カネル公爵家
30/48

2-11 もうすぐ



さすがエディ。

仕事が早い。

紙の製作所の買い取りが成立した。

製作所と従業員が二名、キイトの指示で動かせるようになったのである。

さっそくケーキの箱のデザインを渡し、製作に取り掛かってもらう。

キイトは店で午前中は仕上げを、午後から仕込み、閉店後は事務仕事である。

事務仕事は最近の売り上げのまとめや商品ごとの売り上げの数字を算出する予定なのだ。

当たり前のことなのだが、売れるものは数を増やしたりバリエーションを増やし、売れないものは販売中止にする。

「どうですか? 最近お客さん多いし、順調な気がするんですけど」

キイトの手元をイグレッツィオが覗き込む。

紙はわりと高価なものだが、キイトが書き込んでいるルーズリーフは貰い物。

マコトが召喚時に持っていたものである。

ケーキによって原価が違うため、何が何個売れたのでいくらの利益が出る、という計算を最初に行う。

そこから材料の仕入れ金額や魔動石代、給与などを引けば純利益が出る。

この純利益から税金が引かれていくわけだが、エトランの税金制度は穴が多い。

それは今まで日本で暮らしていたからそう思うのであって、こちらの世界ではそれが普通、なのだが。

「うん、利益は上がってるな」

順調だ。

ビストロに卸してる分も数が増えているし、店での売り上げも日々増加している。

利益を出したあとは商品ごとの売れ筋を確認。

「んー、やっぱりスティックパイの売り上げが他の倍くらいあるな」

「それと最近、騎士様がよくいらっしゃいます」

「ノル?」

「いえ、ディスカ様もよくいらっしゃいますけどね、違う方も多いんです」

王宮に住む騎士は、基本的に自分のことは自分でする。

というより想像以上に従者や侍女、下働きのような人が少ない。

貴族一人につき数人、侍女がつき、何やかんやと世話を焼くのかと思っていた。

が、それは王族や上位の貴族くらいで、上位貴族の中にも従者がいないということがある。

エディも従者はいない。

屋敷には使用人がいるが、しかもそれは三人のみ。

その三人だってやたら気安い関係で、中世ヨーロッパなイメージを持っていると裏切られることが多い。

貴族だって自分で買い物をするし、お茶を淹れるし、着替える。

さすがにドレスアップなどは一人ではしないようだが、箸より重いものは、などということはない。

「一度にたくさん買われるので売り上げが上がって嬉しいんですけど……」

イグレッツィオは言葉を濁す。

確かに売り上げが上がれば嬉しいが、今まで見なかった客層が増えると不審である。

「ノルが言ってたみたいに、討伐のおやつなんじゃね?」

「そうなんですかねぇ」

今度ノルマンドに会ったら聞いてみよう。

何か知っているかもしれない。




数日後、リゲルといつものビストロで待ち合わせた。

リゲルは昼が遅かったというので、軽くつまめるものを注文。

一口サイズのクラッカーのようなものに、チーズやトマト、ディップなどがのっているものが運ばれてきた。

あとはポテトフライと野菜スティック。

この二つは一緒についているソースとディップが旨いのだ。

「先日はすまなかった。そしてこれは土産」

どん、とテーブルに置かれたのはかご盛りの梨のようだ。

洋梨ではなく和梨である。

「ありがと」

現場近くに梨があったのだろうか。

和梨は菓子に向かないので、冷やしてそのまま食べることにしよう。

「それでなんだが。また少し忙しくなるから……当分家に帰れそうにない」

淡々とした口調だが、上目遣いでキイトを窺うリゲルは正直かわいい。

だがしかし。

だがしかしだ。

ラブホもなければ屋敷に連れ込むのもどうかなこの状況で、唯一手出ししやすかったのが、リゲルの家である。

いやほら若いから。

「すまないな」

「いやいいよ。でも次帰るときは教えて欲しいかな」

「わかった」

キイトの下心に気付かないリゲルは、ごく普通に頷いた。

「魔術書は読んだか?」

「今半分くらいかな。時の魔術を覚えたいんだけど、リゲルは使える?」

「初歩の初歩くらいなら。今存命の魔術師で時の魔術を使える者はいない。本当に覚えたかったら自力でがんばるしかないぞ」

そんなに難易度が高いのか。

「初歩の初歩だけなら教えられるから、あとは自力でがんばってみてくれ。おそらく、大丈夫だと思う」

「難しい魔術なんじゃないの?」

「難しいな。ただ、異世界から召喚された五人なら、使える可能性が高いと思う」

「へぇ……」

リゲルがそういうなら、ちょっとやってみよう。

時の魔術はキイトが欲しいものを開発するために、絶対必要な魔術だ。

五人のうち一人でも使えるようになれば開発が進む。

他の四人にも聞いてみて、希望者だけリゲルから教えてもらうことになりそうだ。

少なくともジローは習いたいと言うだろう。

浄化の話や店の話、たった数日しか経っていないが近況を聞く。

元の世界では気軽にメールや電話で連絡が取れたが、この世界は違う。

通信系の魔術は発達していないし、手紙を送るくらいなら直接会ったほうが早い距離だ。

「そういえば魔動石のエネルギーはうまくいってるか?」

「あぁ、今のところ順調。滋郎が連休の間も実験してた」

「せっかくの休みを……ジローは働きすぎじゃないか」

「働く方が楽しいんだってさ。食事と睡眠はきちんととってたよ」

ジローの休みは昨日までだったのだが、結局いつもより睡眠を多くとるだけで休みらしいことはしていなかった。

しいていうなら絵を描いていたことくらいで、それも一応仕事に関係する。

こちらにはない漫画の描き方を、イグレッツィオに教えていたのだ。

キイトの計画は絵本作成や小説に挿絵をつけることであって、漫画作成ではないのだが。

ジローの説明をすぐにのみ込んだイグレッツィオは、漫画らしい絵を数点書いていた。

この調子なら計画は順調に進みそうだ。

「あぁ、そうだ。次の店休日の朝、城に来て欲しい」

「城に?」

「英雄の丘に行ってもらうことになった」

「五人とも?」

「……五人ともだな」

以前聞いた精霊の武器か。

ちょうど数が五で、確実に怪しいと思っていた。

「わかった」

“英雄の意志”ね。




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