0-02 語学学習
適性検査終わった後、城内を案内してもらうことになった。
及川は早々に別室に移動となり、4人だけだ。
説明を受けながら散々歩きまわって、昼食を挟み、5時間以上掛かったのではないだろうか。
滋郎が質問しまくるものだから余計に時間が掛かったのだと思う。
あのメモの内容が気になる。
アイツは常に片手にメモ。
普段何書いてるんだ。
夕食後から就寝まで学習時間らしい。
あまり時間に余裕がないようだ。
与えられている部屋の一室で、授業が始まった。
今日は語学そのものではなく、予備知識を習うという。
この国で主に使われているのは大陸共通語。
エトランのある大陸の名前をウナカーサという。
ウナカーサ大陸共通語。
他にも大陸はあるようだが、大陸と言えば一番発展してるウナカーサを指すらしい。
この大陸は上を向いた三日月のような形をしており、エトランは切れ目から西2つ目に位置する。
切れ目から西1つ目が問題の国である。
逆にエトランの西の国はリダインと言い、こちらとはほとんど関わりがないらしい。
「その翻訳の道具、もっとあればいいのに……」
授業の合間に真琴がぼやく。
視線はエディの手元である。
翻訳の魔道具を持つのは王族や魔術師の一部、割と上層部の人間か、自分たちの専属侍女たちだけだ。
即ち後見人となる貴族は勿論、買い物するにも店の人間と言葉が通じないのである。
「高価な上に制作にとても時間が掛かる物なので……手に入る頃には必要なくなっているでしょうね」
そんなにか。
「諦めて勉強した方が良いっすよ」
「くう……ジロに言われると何かムカつく」
「ははは、それでは続けますね。……エトランは大国です。資源も豊富ですから、他国から欲しいと思われてもおかしくない」
「資源って何すか?」
「これです」
卓上にあったランプの下部から石を取り出した。
あの白い石と色が違うだけの、ただの石に見える。
「灰色……」
「えぇ、魔動石といいます。このランプでいうとここ、ですね。ここに石をいれて、それを動力にして灯りがつく、というわけです」
石油や電池といった役割か。
「廊下のランプにも石が入っています。数日ごとに入れ替えてますのでそのうち見ることもあるかもしれませんね」
数日で交換なんて面倒だな。
電気は通ってないのか?
って存在しないのか?
「国内のエネルギーはその魔動石だけっすか?」
「そうです。個人の魔力を使うことも出来るのでしょうが、とても間に合いませんからね」
部屋にはポットのようなものもあったし、元の世界でいう家電も割と開発されているのだろう。
照明、調理器具、洗濯、掃除、移動手段などなど。
どれだけ普及しているかはわからないが、そうなると間に合わないという発言も納得できる。
初授業が終わり、一息吐く。
エディは退室し、部屋には自分たち4人だけだ。
「どうなるのかな……これから」
真琴が呟く。
「大丈夫っすよ、どうにかなりますって!」
「……アンタは楽観的でいいわよね」
にこにこしている滋郎を真琴は横目で睨む。
「ホラ、茶ぁ入ったぞ」
厨房から頂いてきた焼き菓子を茶請けにティータイムだ。
この世界の焼き菓子も元の世界と変わらないようで安心した。
「ありがと、フジム。……ジロと違って気が利くわぁ」
「えー、ひどいっすよー」
その遣り取りを見て、春日が微かに笑った。
この世界に来て初めて笑顔を見せたのではないだろうか。
でもあれだよな、きっと春日の反応が“普通”なのだ。
「及川先輩には申し訳ないっすけど、俺らは俺らで身を立ててかないと」
「大丈夫なんでしょうか……」
春日が不安げに呟く。
「後ろ盾があるのならどうにかなるっす。及川先輩次第なところはありますが」
「他人に全部負んぶに抱っこなんて、性に合わない」
滋郎の言葉に真琴は眉を顰め言い捨てる。
真琴らしい言い分だ。
「それならそうならないようにすればいいんじゃないっすか」
「……そうよね、うん……そうよね!」
あっさりと言う滋郎。
真琴は何か思いついたのか、吹っ切れたのか。
普段の明るい表情に戻った。
「は……」
バルコニーに出て息を吐く。
月が大きく、赤い。
「異世界ねぇ……」
事実は小説よりも奇なり、か。
室内では3人とも就寝している。
「店、大丈夫かよ……」
元々そう大きな店ではなく、従業員もぎりぎり。
その中から主戦力である自分と滋郎が抜けてたぶん店は忙しい。
2人ともほぼ毎日働いていたのだ。
店長が身内だと中々扱き使われるものである。
「寝るか……」
夜風は気持良かった。
翌日は午前中から授業。
みっちりである。
とにかく詰め込めと言わんばかりに授業は進む。
学校で習う外国語と違い、モロに生活に影響してくる。
日常の生活で身につくものも大きいだろう。
よく使う単語さえ覚えていれば割とどうにかなるもんだ。
春日の提案で単語カード作りに勤しむ。
いざとなればこれを見せれば通じるだろうということで。
ちなみに服は色々もらったので、それぞれの制服はきちんと保管してある。
毎日24時間、制服をきているというわけではない。
こちらの服も元の世界の服も大きな違いはなさそうだ。
普段着に関しては落ち着いた色が多いが、ドレスや騎士服は派手な色合いのものも見掛けた。
昼食はオープンサンドとサラダとスープ。
使われている食材は至って普通(に見える)。
サラダは……ホウレンソウか?
生のホウレンソウに玉ねぎときゅうり。
オープンサンドはトマトスライスにチーズ、ハムと至って普通。
スープはトマトスープのようで、細かく刻まれた具が色々入っている。
「……米?」
「だな」
スープには米が入っていた。
見慣れてるものより長細い感じがするけど。
だがしかしこれっぽっちの量だと雑炊ではない。
「エディさん、この白いのって」
「それですか? 米はスープやサラダによく使われる食材ですよ」
エディは指輪を嵌めているので、米は元の世界で使われる米と同じってことだよな?
指輪を外すと違う単語に聞こえるのだろうが、米は米。
「どうせなら単品で食べたいんだけど」
真琴の提案に一同頷く。
「単品? ですか?」
「炊いた米が食べたい」
「えーっと、この国の料理ではありませんが、ピラフ、でしょうか?」
「ピラフでもなんでもいっす。とりあえずご飯ものが食べたいっす」
同意。
米があるなら米が食いたいよな。
今はまだ良いけど、そのうち絶対恋しくなるって。
「わかりました。夜はピラフにするように伝えましょう」
「やった!」
「さて、それでは続きをしましょうか。夕食まで、頑張りましょうね」
「鬼!」
「あ、そうそう。これは文字の練習帳です。自主勉強にお使い下さい」