表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ノーグ・コンフェクショナリー  作者: クドウ
カネル公爵家
28/48

2-09 白の塔




「うがぁ! もうやだあああああ」

マコトは叫び、机に突っ伏した。

精霊の巫女は浄化の魔術や回復魔術に加え、詳しい国の歴史を勉強せねばならない。

マコトはミナミに付き合って勉強するように強要されたのである。

勉強嫌いなマコトはもちろん断ったのだが、ミナミを盾にされ致し方なく頷いた。

歴史は週に数回、リゲルが講師として訪れる。

「歴史なんて巫女と関係ないじゃんんん」

低く唸る。

リゲルとミナミが苦笑いしているのが目に映った。

ミナミの肩に乗ったトーカがマコトを馬鹿にしているかのように舌を出している。

「蛇に馬鹿にされてる……」

歴史の勉強は巫女の義務だというが、実際活用されているかといえば……という感じらしい。

これを機に廃止にすれば良いよと訴えてみたが、却下された。

760年分の歴史を、かなり細かく勉強するのだ。

日本のことだってこんなに詳しくないってほど、エトランに詳しくなりつつある。

浄化も回復も使わないのに習わされ、もちろん侍女の礼儀作法とか騎士の訓練とか、中々多忙だ。

勉強メイン、仕事なし。

精霊の巫女の侍女は、巫女の補助をするらしいのだが、基本的にミナミは何でも一人でしてしまう。

元々一人でしていたことをいざ他人にやってもらえといわれても、確かに抵抗があるだろう。

「マコト、ミナミ。休憩にしようか」

リゲルがお茶を淹れてくれた。

熱いお茶は落ち着く。

「でもやっぱり納得いかないいい」

「そう言うな。学んだことはいつか必ず、マコトの力になる」

妙に力強いその言葉が、何故だか心に響いた。


休憩後、みっちりと歴史の勉強をし、マコトは再び机に突っ伏した。

疲れた。

かなり疲れた。

一日がこれで終了なマコトと違い、ミナミは今からが大変なのだ。

マコトはぐっと伸びをして立ち上がった。

ミナミの巫女装束を用意するためだ。

巫女装束、といっても正月に見るような赤と白の和装ではない。

上半身はタイトな作り、下半身はふんわりとしたロングスカート。

色は全身真っ白で、ヴェールで顔を隠し、まるでウェディングドレスのようだ。

背中に小さなボタンがたくさんついているので、一人で着替えることが出来ない。

巫女には必ず侍女がついているので問題ないのだが、不便だと思う。

マコトはミナミの背中のボタンをとめながら、そんなことを考える。

「よし、オッケ。いこっか」

精霊の巫女の役目、それは人々を癒すこと。

白の塔の一階は聖堂となっており、怪我をした人々が訪れる。

そこで巫女は怪我人を癒すのだ。

病気には効かないので、訪れるのは怪我人だけ。

役目は他に不浄のもの、いわゆる呪いの感染が発見された場合、現場を訪れ浄化すること。

元々が攻撃的な魔物の場合は浄化せず、そのまま討伐してしまうこともあるらしい。

浄化してもしなくても、討伐することにかわりがないからだ。

ミナミが聖堂で人々の相手をする間、マコトはその護衛につく。

侍女にしか見えないだろうが、れっきとした護衛である。

ごく稀に暴走して巫女を攫おうとしたり、病人が乗り込んできたりするそうだ。

特に大病を患った人は暴走しやすい。

効かないと理性ではわかっていても、もしかすると、と希望を捨てきれないのだろう。

その気持ちはわからないでもない。




翌日の朝、歴史がないのにリゲルが白の塔を訪れた。

珍しい。

「ミナミに呪いの浄化をしてもらうことになった」

リゲルは淡々とミナミに告げる。

呪いは発生地点が決まっているらしく、呪いが発生するとその地点が変色するのだと浄化の勉強で教えてもらった。

最近その地点が変色していたので近々……という話は聞いていた。

その話がミナミに来るとは思っていなかったが。

「じゃあ私も同行するんだよね?」

「ああ。私と救世主も同行することになっている」

「みっちー……!」

笑いを必死で耐える。

さすがみっちー、やってくれる。

「私に……出来るでしょうか」

自信がなさそうにぽつりと呟く。

「大丈夫だ、難しい規模ではない。ミナミなら問題ないと思う」

呪いの浄化の練習はよくしている。

特に失敗なく出来ているのだが、実践は初めてだ。

不安に思っても仕方がない。

「今回の一番の目的は呪いを直接見ることだからな。その気配を感じてくれればそれで良い」

「それって今から?」

今日は訓練の日だ。

休むことを伝えなくてはならない。

世話になっている女性騎士は何故かマコトをとても気に入ってくれているようで、がっかりするだろう。

マコトの剣術とこちらの剣術はかなり違うので、面白いと思われているのかもしれない。

「明後日の早朝、出発する。呪いには監視をつけているから被害は大きくならない」

現役の巫女は白の塔にしかいないため、近場でない限りどうしても日数が掛かる。

そういう時は対象に監視をつけて被害が出ないようにするのだ。

被害が出そうになれば対象は処分される。

「特に必要なものはない。この部屋まで迎えに来るから用意して待っていてくれ」

となると、明後日は侍女服ではなく騎士服か。

侍女服は戦い難いからね。

久しぶりの実戦だ。

楽しみである。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ