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ノーグ・コンフェクショナリー  作者: クドウ
カネル公爵家
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2-08 ジローの休日?




冷蔵庫とミキサーが稼動した。

ジローの使う城の一室からケーキ屋までの距離は、魔動力の供給が可能ということだ。

距離がどれだけのばせるか、一度にどれくらい供給が可能かなど、確認作業は山ほどある。

とりあえず第一段階終了ということで、ジローは今までの分を取り戻すかのように連休を取得した。

「って聞いてたんだけど、何でいるの?」

マコトにそう言われたジローは、厨房用の服を着て泡立て器ホイッパーとボウルを手にしている。

「だって暇なんすもん」

キイトが屋敷を出た時は、まだ起きていなかった。

昼過ぎに起きたらしいが、娯楽が少ないので暇を潰せなかったようだ。

本を読むなり買い物するなり、色々あると思うのだが。

「マコ先輩は、何しに?」

マコトは侍女服を着ているため、今日は休みではないのだろう。

「何って……お遣いかな。春日チャンとオヤツにしようって」

「仕事は良いんすか?」

「仕事みたいなもんでしょ。ていうか侍女の仕事ほとんどないけどね。勉強ばっか」

マコトはぶつぶつと不平不満を吐き出したあと、あれこれ楽しそうにケーキを選び始めた。

「おい滋郎、クリームだれるぞ」

キイトはジローの手から泡立て器ホイッパーとボウルを奪い、冷蔵庫に仕舞う。

「マコ、明後日から遠征だって?」

今朝突然リゲルが屋敷を訪ねてきたのである。

用件は次の店休み日である明後日、仕事になったので会えない、ということ断りと謝罪だった。

「うん、呪いがどうのこうのって」

呪いの感染した魔物が発見され、それの浄化にミナミが選ばれた。

一応護衛であるマコトは当然、リゲルや騎士も数人同行するらしい。

せっかくのデートが潰れてしまい、キイトとしては面白くない。

「あー、くそ、よりによって明後日とか」

「もしかしてリゲルと約束してた? 店、休みだもんね」

「まぁな。気をつけろよ」

「大丈夫、大丈夫!」

マコトはキイトの言葉に笑顔で軽く返す。

確かに五人にとって魔物は、そんなに危険なものではない。

だがそれを見ていたジローは真剣な面持で忠告する。

「……油断大敵っすよ。何気ない行動ひとつで運命変わることだってあるんすから」

「……うん。気をつける、ありがと」

ジローの言葉に、はっとしたマコトは真剣に頷いた。

ジローの表情が、真剣だったから。

いつもの調子ではなかったから。

その言葉が何を意味するか、わかってしまったから。

キイトはその様子を見て、黙ったまま息を吐いた。



仕事を終え、キイトとジローはビストロに行くことにした。

ジローは最近篭りっぱなしだったので、久々の外食である。

屋敷に戻ったらエディと話し合いをする予定だ。

話し合いというよりは頼みごとと言った方が正しいか。

とにかく肉が食べたいというジローのリクエストで、注文は鶏肉の丸焼きとなった。

キイトは肉といえば牛肉だと思うのだがジローは違うらしい。

鶏肉の腹に野菜や果物がたっぷりと詰められ、ソースもたっぷり。

淡白な肉に合うこってりとしたソースが旨い。

「そういえば遠征って、及川先輩も行くらしいっすよ」

鶏肉を夢中になって頬張りながら、その合間にジローが言う。

もちろんメインは肉である。

「マジか。あー、春日が行くんだもんな」

「っす。健気っすね。上手くいけばいいんすけど」

こればっかりはどうにも。

好かれれば好きになるなんて単純なものではない。

「及川なー。なんつうか春日の前では弱気っつうか」

「ヘタレっす。見てておもしろいけど」

元の世界ならともかく、こちらではミナミの傍には白蛇トーカがいるわけで。

近付くだけでもびくびくしているのがよくわかる。

蛇型の魔物が出たらどうするのだろうか。

「キイトくん、ジローくん、これ」

「ん?」

「私から、サービス! なんて、試作品れんしゅうなのよ。感想聞かせて欲しいなって」

ターシャに差し出された皿は、デザートプレートだった。

もちろんケーキ屋から仕入れているものだ。

ただしキイトが提示した盛り付けではなく、アレンジされている。

「へぇ……かわいいっすね」

女性らしい盛り付けだ。

キイトはタルトの横にクリームを添えていたが、ターシャは上にかわいらしく絞っている。

「つうか絞りが出来るならもっと難しい盛り付けにしても良いよな」

「ふふふ、最近ちょっとケーキいいなぁって思ってて。ひそかに練習中。ケーキ屋さんのケーキってこうやってかわいく絞ってるよね」

「あーなら暇な時にでも店に来れば?」

「え、教えてくれるってこと?」

「うん、凝ったデコレーション出来た方がデザートプレートの幅も広がるし」

その上、盛り付けの指南をせずに済む。

そうすれば時間の節約にもなる。

ついでにケーキ屋も手伝ってくれれば万々歳なのだが。


屋敷に戻るとエディはすでに夕食を終え、寛いでいるところだった。

「悪い、遅くなった」

「いえいえ、大丈夫ですよ」

テーブルにつき、マチルダにお茶を淹れてもらう。

「さて、それでは伺いましょうか」

リゲルに借りた魔術書と原案を書いた紙を取り出し、説明を始める。

「紙の普及ですか……」

「元の世界じゃ、紙はかなり利用されててさ」

紙製品のデザインをさらっと書いているのだが、実物を見たことのないエディには分かり難いかもしれない。

デザインを指差しながら言葉でも補足してどうにか説明する。

「なるほど。製作所にこれを注文したいというわけですね」

「それなんだけどさ、製作所を買い取る、って出来ないか?」

別に買い取りまでしなくても良いのだが、自由に指示出来た方が楽である。

ついでにそのまま人員も欲しいのだ。

ケーキ屋関連にも人が欲しいが、長時間は要らないため兼任にすればちょうど良い。

紙の製作所は城下町では二箇所。

もちろん需要があまりないので、どちらも人員も少なく、利益も少ない。

所持者もあっさりと手放す可能性が高いのではないだろうか。

キイトが目をつけたのはその片方。

「城に近いこっちの方。土地が広いんだよな」

城と屋敷の中間にある製作所は、庭がかなり広い。

「魔動力の変換所とかにも使えそうじゃね?」

変換所がどこになるか、まだ決まっていない。

一般に普及できるかも確定していないので当たり前なのだが。

「そうですね……しかしこの紙の製作所、損失ばかりじゃ話になりませんよ?」

「最初は赤字が続くかもしれないけど……そこはどうにか頼む。もちろん何年掛かっても返すし」

「金額にもよりますけどね。……これくらいならどうにかなるでしょう」

「助かる」

エディ様様である。

現在製作所の損益はとんとんといったところなので、そこまでひどい赤字にはならないと思うのだが。

それに店で使う紙製品を上乗せするということは、製作所云々というよりは店の方が問題だ。

店で紙製品を使うとその分単価もあがるわけで。

それで売り上げが落ちると赤字、落ちなければ黒字だ。

もちろんキイトは売り上げが上がると見ているからこその買い取りである。

ただそっち方面は素人なので、確実とはいえない。

「持ち主は……あぁ。買い取りの話はこちらで進めておきましょう」

「何だ、知り合い?」

「えぇ。ちょうど手放す話が出ていたので」

タイミング良いな。

この話はここで終わり、あとは魔動力や魔動具の話に移った。

魔動力は普及の目途がたてば国レベルで浸透させたいらしい。

二人は戦争に関してノータッチだが、エディは一応中枢にいるので忙しいようだ。

戦争の準備は着々と進んでいるとのこと。

隣国が勝ってくれれば戦争にならずにすむのだが。





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