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ノーグ・コンフェクショナリー  作者: クドウ
カネル公爵家
24/48

2-05 店休日




待ちに待った店休日。

緊急呼び出しは、ない。

足取り軽く、城へ向かう。

「あー、ケーキ屋さんだー」

「は?」

騎士だ。

緊急討伐で武器を貸した騎士が、小走りに寄って来た。

冑を手に持っているので、顔がよくわかる。

ごく普通の茶色の髪は長く、後ろで一つに束ねられている。

この国の男は髪が長いことが多いようだ。

「何々? 今日は臨時討伐?」

「違う。私用で走竜ランドラ借りに来ただけ」

「えー」

何がえー、なのか。

「俺今から討伐なんだよね。おやつ期待したのにー」

「残念だったな。今日は何も持ってない」

リゲルの話だと山に自生する果物が豊富にあるというので、それを貰う予定なのだ。

店で取り扱っていないような珍しいものもあるらしいので楽しみにしている。

「ちぇー。あ、そうだ、ケーキ屋さんのケーキ屋さんってどこにあるの?」

「裏通りの角の……」

城からの道を簡単に説明する。

城に住んでいる騎士なら、簡単な説明でもわかるだろう。

「あー、わかったー!」

「とりあえず、俺の名前キイトだから。ケーキ屋さんじゃないから」

ケーキ屋さんって。

臨時の騎士の中にケーキ屋がいる可能性は低いので紛らわしくはないだろうが。

「わかった、ケーキ屋さん!」

「いや話聞けよ」

「あ、集合だ。またね、ケーキ屋さん!」

「おいこら」

話聞かないというか敢えて無視しやがったよな。

しかもあいつ名乗ってないし。

まぁいい。

気を取り直して走竜ランドラを借りに行こう。

戦闘用に訓練された優秀な走竜ランドラは1から50までの番号で、それらの貸し出しはさすがに出来ないが、その他の番号は借りることが出来る。

もちろん一般人は借りられないが、キイトは臨時といえど騎士である。

騎士や魔術師、城の関係者は大抵借りられるようだ。

竜舎に行くと、いつもの係りの騎士がいた。

何故かぎょっとしたように見られ、首を傾げる。

走竜ランドラを私用で借りられるって聞いたんだけど、どうすれば良い?」

「あ、あぁ……ここに名前を書いてくれ」

ボードに名前を記入すると、その横に番号を振られる。

「それ、走竜ランドラの番号?」

「そうだが」

「61番は空いてないのか?」

書かれていた番号は78番。

空いているなら出来れば61番、マサムネが良い。

「空いてることは空いてるが」

「じゃあ61番を貸してくれ」

騎士は61番と書き直し、番号札を取り出した。

礼を言って、61番のところまで歩く。

キイトに気付き、マサムネが鳴く。

「おー、おはよ。今日はよろしくな」

撫でてやると嬉しそうに擦り寄って来る。

まだ3回目だというのによく懐いたな。


マサムネを連れて城門付近で待っていると、足早にリゲルが現われた。

いつもの魔術師らしい格好ではなく、膝丈のスカートにタイツとブーツを合わせている。

こうして見ると、元の世界とあまり変わらない服装だ。

リゲルが街を歩いていてもおかしくは……あるか。

銀色の髪は確実に目立つ。

「すまない、待たせたか?」

「いや、今来たとこ」

走竜ランドラは元々二三人で乗れる。

マサムネを連れ、徒歩で城下町を出てからリゲルを後ろに乗せた。

二人乗り。

これが原付か自転車だと定番なんだけどな。

街道沿いに走る。

村一つ、町一つを通り過ぎた辺りで、街道から反れる。

しばらくすると隣国リダインとの国境近く。

ふもとに町が一つあるらしいが、山だらけだ。

その山の一つに、リゲルの家がある。

麓でマサムネから降り、そのまま徒歩で山を登り始める。

手綱を引かなくてもマサムネはちゃんとついて来るようだ。

賢いな。

登り始めてすぐにアカの実の群生があった。

「アカの実、多いな」

「この国のどこにでもあるからな。何故か他国ではあまり育たないようだが」

気候がほぼ同じである隣国でもあまり育たないという。

土壌が違うのか何なのか、詳しいことは解明されていない。

アカの実が実っているもの、実が緑のもの、花が咲いているもの。

同じ場所に生えているのに、成長具合もそれぞれ。

不思議な植物だ。

「アカの実は年中あるが、他の実は季節によって変わる。この時期だと……」

リゲルは辺りを見回し、一つの木を指差した。

「あの薄紅の実が美味いんだ」

数個もぎ取り、麻袋に詰める。

その木の根元にあった茸や蔓に出来た実も採った。

「このくらいで良いか。この三つは市場には出回らない、珍しい種類なんだ」

他にも黄色の実や紫の実があったが、たしかに店で見た覚えがある。

そこから少し登ったところにリゲルの家はあった。

キャンプで使うようなログハウス。

石造りの家が多いので、木製の家は珍しい。

「狭い家だが」

促され、家の中に入る。

確かに広くはないが、一人暮らしなら十分すぎる。

一階建ての四部屋で、部屋自体はわりと狭い。

テーブルにさきほど取った果物を並べ、カットする。

香りや断面図を観察し、種は持って帰る。

エディの屋敷の庭にこっそり植えておこう。

リゲルの淹れてくれたお茶を飲みながら、果物を食べる。

薄紅の方は桃に近く、蔓の方は葡萄に近い。

似ているけどどこか違うが、環境の違いの変化なのか品種違うのか、よくわからない。

元々店で使う果物以外の知識は持っていなかった。

「ずっとここに住んでんの?」

「あぁ、数百年ほど。生まれた時からこの辺りに住んでいるが、さすがにこの家ではない」

生まれた時から。

要するに700年以上この土地で。

「生まれた時、この辺りは村だった。男は鍛冶を、女は機織を」

懐かしむように目を細める。

「村が襲われて、英雄の丘まで逃げ込んでひっそりと暮らしていた。アカの英雄に救われてから今の城や城下町を作ったんだ」

穏やかに笑うリゲルを見ていると、たまらない気持ちになる。

何でだろう。

「へぇ。でもなんであの場所に? ここにすれば良かったじゃん」

「あぁ……地下の泉があるだろう? あの泉の力を使うために、あの場所に城を建てたんだ」

白蛇の精霊の住処か。

精霊が住んでいるだけあって、やはり特別な力があるのだろう。

「そういえばさ、英雄の意志って結局何?」

「……英雄は、未来いまを望んだ」

現在いま?」

視線をカップに落とし、リゲルが呟く。

「五人の異世界人を召喚した、未来いまを」

「やっぱり元々五人召喚したんだな。巻き込まれたんじゃなくて」

「あぁ。大陸暦760年に、異世界から五人召喚するようにと、英雄に頼まれた」

「予言じゃないのか」

「予言……ではない。英雄はその未来になるとは言わなかった。私は英雄に頼まれた英雄の望む未来になるように動いている」

「英雄の望む未来……」

「昼食にしようか」

リゲルは立ち上がり、準備を始めた。

先ほど採った茸でパスタを作ってくれるらしい。


しかし。

長期不在にする場合、やはり魔動石は不便だ。

事前に冷蔵庫を空にするか、魔動石の入れ替えを頼むか。

そうなるとやはり電気のような自動供給が望ましい。

ジローも何とか出来そうだと言っていたので、そのうち出来上がるだろう。




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