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ノーグ・コンフェクショナリー  作者: クドウ
カネル公爵家
23/48

2-04 緊急魔物討伐




早朝急に城からの遣いがやって来た。

目を擦りながら集合場所である城の広場まで歩く。

走竜ランドラの番号札を受け取り、竜舎へ向かう。

またもや61番。

「おー、よろしくな」

ぽすぽすと撫でると、小さく鳴いた。

「これも何かの縁ってことで、お前は今日からマサムネな」

心なしか嬉しそうに鳴き、キイトの手に擦り寄る。

おっと和んでいる場合ではない。

一応緊急討伐なんだった。

緊急と言いつつも、ちゃっかりおやつを持って来る余裕はあったわけだが。


城から南西の方角に、トープという飛行型魔物の大群が現れた。

この魔物はすぐ移動するので、目撃次第早く討伐するようにしているという。

害がなければ放っておくのだが、この魔物は肉食。

食い尽くすまで獲物の上空を飛び回る。

この魔物に滅ぼされた村もあるというから、中々危険なのだ。

救いなのは空腹時と正当防衛でしか殺生を行わないところか。

そう考えると悪い魔物ではないのだが、やはり人間自分たちの身はかわいい。

仕方がないことなのだろう。

走竜ランドラに乗り、目撃場所へ急ぐ。

臨時であるキイトは見張り役で、目撃場所付近に一般人や他の魔物が入り込まないように警備する。

森中央の上空に、旋回している魔物が見える。

暗いオレンジ色の大きな魔物。

コウモリのような羽にトゲがあり、漫画に出てきそうだと的外れな感想を抱く。

旋回している魔物は見張り役で、その下は食事中で、交代する瞬間を狙うらしい。

「変わった形の武器だなー」

「あぁ、これ? まぁ、そうだな」

突然騎士の一人に話しかけられた。

見張り役って暢気なんだな。

討伐に関係ない話を振られるとは思っていなかった。

「これはこっちがブレードで、こっちが銃……放出になってる」

この世界に銃はない。

弓はかろうじてあるが、放出系の魔法があるせいか飛び道具をあまり見ないのだ。

元々銃剣なんてゲーム内でしか見たことがなかったが、銃がない世界ではこの武器はもっと珍しいだろう。

「へぇー。便利そうだねー、オーダーメイド?」

「あー……眼鏡の……」

何と言えば良いのか。

自分から召喚されたなんていうと馬鹿みたいだし、ジローとこの騎士が面識があるかどうかもわからない。

「あ。開発の臨時職員の眼鏡に作ってもらった」

開発の臨時職員はジロー一人だ。

ジローを知らなくてもその説明で何となく理解してもらえるだろう。

「なるほどー、ね、あとでそれ貸して? 使ってみたい」

「いいけど、たぶん無理だと思う」

「……どういうこと?」

説明しかけたその時、旋回していた魔物が降下し始めた。

緊張感が走る。

皆無言で、その様子を見守る。

金属音が響き、悲鳴や怒号、一気に騒がしくなる。

始まったのか。

降下してしまえば木々が邪魔で、その様子は窺えない。

見張りは相変わらず他の侵入を許さないことが仕事で、トープと直接対決はなく。

逃げる時は空を飛ぶので、追いかける術もない。

負傷したトープが羽ばたき、空を逃げる。

放出系の魔法が飛び交い、仕留めようとするが中々当たらない。

当たったところで丈夫な皮膚を持つトープは、一撃二撃じゃ撃ち落せないのだが。

「あっちは城の方か。大丈夫なのか?」

「んー、どうかなー。どうせまた空腹になったら狩りを始めるだろうし、そのとき動けば良いんじゃない? どうせもう魔法が届く距離じゃないし」

普段ならそれはそれで良い、と思うところだが。

今回は少々違う。

今度の定休日はリゲルの家を訪れる予定なのだ。

そんな美味しい機会を魔物討伐なんかで潰す事になってみろ。

「うん、仕留めようか」

人の恋路を邪魔するやつは滅びると良いよ。

まだ邪魔されてないけどな。

銃剣を構える。

「Й」

魔力を込め、魔記号を呟き、想像する。

炎は生まれ、トープを貫く。

それは心臓を貫き、燃やし、地上に落とし。

「Я;Я;Я」

連射。

ただ魔力を込めれば使えるが、自分なりにコントロールした方が格段に性能が良い。

それに気付いたのは製作者であるジローではなく、使用者であるキイトだ。

これはジローが作ったものが特別だということではなく。

単純に使用者の魔力の込め方、量、操作でどうとでもなる。

どんな武器でも使い方次第。

炎はトープを貫き、その身を燃やす。

一匹、また一匹と落下していく様子を、その場にいた者はただ、見ていた。



「……本当に便利な武器だね。ね、貸してー?」

興味津々なその騎士に武器を渡す。

キイトはその間に休憩だ。

木の根元に座り、おやつに持って来ていた店の売れ残りを取り出す。

賞味期限切れというわけではないが、そろそろ引いておくかと思った焼き菓子である。

騎士が刃を出したり銃を発射したりしているのを見学しつつ、まったり休憩。

やはりというか何と言うか、刃の長さだったり維持力だったり、銃の威力だったり……キイトとは比べ物にならない。

改めて自身の魔力量は多いのだなぁと実感する。

キイトだけでなく他の4人も同じなのだが、この武器はキイトしか使用していないため、よくわからないのだ。

「すごいね、これ、かなり難しい……って何食べてるのー」

「柚子のパウンドケーキ」

「いやそーじゃなくて……美味しそーだね?」

「食う?」

パウンドケーキを差し出せば、高速で咀嚼し飲み込んだ。

「おいしい。甘いの好きなの?」

「好きっつうか……俺ケーキ屋だから、店の売れ残り」

実際甘いものよりしょっぱいものの方が好きだ。

おやつかごはんかと言われれば迷いなくごはんを選ぶ。

「あ、そーか。臨時だっけ。……ふーん、ケーキ屋さんなんだ?」

雑談していると、森の中心から騎士達が戻って来た。

隊長に状況を聞かれ、簡単に答える。

驚かれたが、開発の特注武器だというと納得された。

その後、撃ち落としたトープの死体を確認し、走竜ランドラに乗って城へと戻る。

これで安心して定休日を待つことが出来るな。



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