2-02 走竜
さて、ピグゥ討伐である。
前回とメンバーも違い、初めてみる顔ばかりだ。
ジローとは時期をずらしてもらった。
三人しかいないので、一気に二人抜けると店が回らなくなる。
今までの三回は近場だったので徒歩だった。
しかし今回のピグゥの目撃場所までは少し距離があり、移動は走竜という移動用の魔物を使う。
この魔物は草食でおとなしく、従順ということで好まれて使われているようだ。
一応二人乗りまでいけるのだが、今回はピグゥも乗せることになるので全員一人で乗る。
実はかなり楽しみにしていた。
ジローほど漫画やアニメに興味はないが、小学校の時はそれなりにゲームをしていたこともある。
飛ばないとはいえ、ドラゴンである。
番号札を受け取り、走竜を探す。
61番。
それが今回キイトが乗る走竜の番号だ。
番号順に並んでいるのですぐに見つかった。
片目に刃物傷がある。
「大きいな」
大きいと言っても馬くらいだろうか。
馬よりもゴツイので大きく見える。
そっと手を伸ばすと、威嚇された。
撫でたかったのに。
大人しいと聞いていたのだが、どうも違うらしい。
窮地に立たされているのでなければ、魔物は自分より強いものに逆らわない。
要するに強いことをわからせれば良いのである。
「よし」
魔力を開放してみた。
人間版の威嚇である。
走竜は小さく唸り、その場に伏せた。
「勝った」
大人気ないが、ようやく撫でることが出来た。
鱗に覆われた緑の体はごつごつとしている。
鱗なのに滑らかではないのが不思議だ。
「おー」
感動。
帰ったらジローに自慢しよう。
「さぁ行くか」
61番を連れて城門前に集合した。
何か視線を感じるのは気のせいか?
気のせいじゃないな。
かなり見られてる。
口開いてますけど。
走竜に乗って小一時間。
ピグゥは農村近くの小高い丘に集まってアカの実を食い散らかしていた。
騎士約20人に対しピグゥは約50。
一人頭2か3ってことか。
一斉に囲んで、一斉に叩くらしい。
何て安直な作戦。
作戦といえるのか?
ピグゥは単純な動きしかしないし、一匹に手を出すと他も一斉に向かって来るので一気に叩いた方が安全とのこと。
キイトはジロー印の武器を腰に下げ、あとは借り物の革の鎧で軽装備だ。
重い騎士鎧を着ると動ける自信がない。
「今までと違い、一人前としてここにいるんだ。しっかり戦えよ。今回はピグゥ討伐だし危険は少ないと思うが」
隊長から告げられ、頷く。
今まで戦闘に参加していないので言われて当然だ。
だがしかし、笑いながらこちらを見ている騎士たちは気に食わない。
顔を覚えておこう。
走竜たちを一部に集め、騎士だけがピグゥを囲む。
ピグゥは食用になるため、丸焼きの恐れがある炎の魔法などの攻撃は禁止されている。
そのため物理攻撃か、刃状の魔法など、出来るだけ死体に損傷がないものでないといけないのだ。
キイトの武器は条件に合っている。
武器を手に、構える。
「З」
風の刃が出現し、剣が出来上がる。
これで斬れば良いわけだ。
もちろん魔法を使っても良いのだが、人数が多いし外すと面倒である。
隊長が一発目、軽い魔法を打ち込むと、驚いたピグゥたちが散り散りに突進してくる。
それをバサバサと斬り捨てる、ただそれだけ。
特に何の感慨もなく、向かって来たピグゥを斬りつけた。
要は屠畜。
もちろん好んでやりたいことではないが。
それにしてもジローの作った武器は軽い。
刃の部分が魔法なので当たり前といえば当たり前だ。
おかげで片手で軽々と操作出来て、かなり助かる。
他の騎士が持っているような剣は、確実に両手持ちになるだろう。
片手で持つとブレる。
笑っていた騎士に何か仕掛けられるのではと思っていたが、そんなことはなく。
非常にあっさりとある意味初の魔物討伐は終了した。
後は血抜きしたピグゥを走竜に乗せて帰るだけだ。
このピグゥは一番近い農村と、城下町などで配布される。
きっと騎士の宿舎ではピグゥ料理が振舞われるだろう。
「ようやく! ようやく使ってくれたんすね!」
屋敷に戻ると、ハイテンションなジローが部屋を訪れた。
「おー、滋郎、ありがとな。軽いから助かったわ」
「ふ、ふはははは! もう先輩のためなら何でも作るっす! 参考になりそうな魔術書選んで来ましたから何でもリクエストしてほしいっす! 無双しましょう、無双!」
ジローがどさりと本を積み上げる。
つうかどんだけ持って来てんの。
その中の一冊をぺらぺらと捲る。
時の魔術とか空間魔術とか飛空魔術とか中々面白そうだ。
斜め読みだし詳しくはわからないが、猫型ロボットの道具とか再現出来そうだ。
「まぁそのうち読むけどさ……俺今欲しいものがあるんだよね」
「え? 何すか?」
「電気」
「え?」
「電気」
「……ゑ?」
ジローが武器防具関係の開発のことを言っているのはわかっている。
だがそこはあえて空気を読まない。
今一番欲しいものは電気だ、まずそれを開発してほしい。
電気といっても電気そのものが欲しいわけではなく、単純に魔動石の補充が面倒、それだけだ。
「えぇー……電気って……電線引いたり家電作ったりー……?」
「それなんだけどさ。魔動石を魔力に変換って出来ないわけ?」
「え?」
「魔法使う時は魔力使うだろ? 魔動具使う時は魔動石。似たようなもんじゃん?」
「その発想はなかった……ッ!」
ジローは一人ぶつぶつと呟き始めた。
おそらく何か考えているのだろうと放置することにし、マチルダにお茶を貰う。
「ん……魔動石の魔力化、出来そうっす!」
「おー」
「電線ならぬ動線かー……中継作って飛ばす方法を考えた方が早いか……」
「おー」
「どっちにしろ大掛かりになるなぁ。エディさんに企画書出してみるっす!」
「おー、期待してる」
魔動石補充本気面倒臭い。