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ノーグ・コンフェクショナリー  作者: クドウ
大陸暦760年 エトラン
2/48

0-01 魔法の適性

翌朝。

水を貰い顔を洗った後、支給された服に着替えた。

麻のような素材で、襟元が緩めの服だ。

下もゆったりめなズボンで靴は柔らかい革靴。

動きやすそうだ。

女子は女子で白のワンピースなのだが、嫌がった真琴はレギンスのようなものを履いている。

「普通で良かった」

「そうっすね」

確かに普通だ。

元の世界でもありそうなデザインで、違和感はない。




着替えが終わり、食堂に移動する。

この世界ノーグ初の朝食は、シリアルもどきだった。

ミルクじゃなくて白湯だし、しかも薄ら塩味である。

残念ながら好みじゃない。

パフェの底に入っているとつい残したくなるくらい、好みじゃないのだ。

さりげなく周りを見ても誰も何も言わず、もくもくと食べている。

お前ら、不満はないのか。


気に食わない朝食をもそもそ口に運んでいると、若い男が現れた。

何となく昨日もいたような気がする。

後輩がこっそり耳打ちしてくれた。

男の名前はエドワード・カネル。

魔術師らしい。

昨日名乗ってましたけど、聞いてませんでしたよね、って一言多いんだよ。

「今日はまず、魔法の適性を調べようと思います。朝食を終えたらさっそく始めましょう」

シリアルもどきを無理やり胃に詰め込み、ミルクと果物で口直し。

朝は米がいいんだけどな。

藤村家の普段の朝食は、和食が基本である。


女子が食べ終わるのを待って、部屋を移動することになった。

昨日の召喚があった部屋とは別で、3列の長机とそれぞれ5脚の椅子がある。

パイプ椅子じゃなくて木製だけど、学校の多目的室みたいだ。

魔術師に促され、全員揃って最後尾に座る。

椅子に座ると、白い石が配られた。

よくわからないが白い石を握り、力を込める。

そうすれば属性によって色が変わる、というものらしい。


白い石は片手で握ると隠れるくらいの大きさだ。

それを握りこみ、力を込める。

力を込めるといっても、物理的な力ではない。

力を流し込むようなイメージ、らしい。

まぁ実際は魔力を流すらしいのだが、そんなもん知らん。

何事もやってみないとわからない。


しばらくすると石がほんのり温かくなってきた。

そっと開くと白い石がマーブル模様に変化していた。

周りの様子を窺うとやはり皆マーブル模様のようだ。

「さすがですね、世界を渡るとこうも違うのか……」

この世界では、人間ならば誰しも魔法が使えるという。

火・水・風・地・光の5属性があり、大抵一人一つ適性がある。

勿論中には複数の適性がある人もいるらしいが、割と珍しい。

このエドワードという魔術師は、珍しい3属性持ちなのだそうだ。

が、この世界では魔法と魔術は別物らしく、この男は魔術師であって、魔法使いではないのだと言い張る。

「中でも光の属性は稀少です。……ほう、5人中3人もいるとは」

光というだけあって、イメージ通り黄色らしい。

貴人と春日以外の3人の石は、黄色の混じったマーブル模様だ。

ちなみに貴人の石は青、水色、赤の混じった3色に見える。

「つうかお前のすげぇな」

滋郎の石はそれはもう見事に5色混じっている。

「ほほう。もしやあなたが救世主なのでは」

「いやいやいや、違うっす。俺より及川先輩の方が断然強いっす」

滋郎が顔の前で手を振りながら答える。

「及川先輩?」

及川に興味を持ったらしい魔術師が、手元の石を覗き込む。

及川の石は黄色・赤・緑の3色だ。

魔術師はそれぞれの石の色を書き込んでいるようだ。

紙は再生紙のような薄茶色、ペンは万年筆のような形のものを使用している。

「及川先輩の剣は国で一番といっても過言ではない腕前で」

実際、及川は去年新人戦で優勝している。

魔術師の意識は及川に向かったようだ。

この調子なら順調に及川を救世主にもっていけるのではないだろうか。

「……そう、正義感も強いから、向こうで代表もしていたし」

嘘ではない。

今月末の選挙で、及川はおそらく生徒会長になっていたはずだ。


お、魔術師がその気になってきたみたいだ。

言い伝えに根拠はないし、救世主が誰かもわからない。

そもそも救世主が本当にいるかどうかもわからないような状況なのだ。

それらしければ誰でも問題はない。

結果オーライ。

「俺で良ければ力になります」

魔術師がその言葉に目を輝かせる。

及川の手を掴んだかと思うと、ぶんぶんと上下に振った。

「ありがとう! 早速師たちに報告に行ってくるよ!」



バタバタと遠ざかる足音を聞きながら溜息を吐いた。

「行ったな」

「上手く行きそうっすね」

「そうね」

及川が救世主になると言った理由。

それは、女子2人を守るため。

このまま救世主が決まらなかったら、全員戦場に行く可能性があるのでは、という考えに至ったらしい。

男子はともかく女子が戦場だなんて、ということらしい。

及川、すげぇ。

でも本音は駄々漏れだけどな。

この状況でそこに考え至ったこともそうだが、それで自分が犠牲になろうというのだから恐れ入る。

実際その状況になって実行に移せるやつは早々いないだろう。




「……ごめん」

真琴が眉を潜めてぽつりと呟く。

「謝んなよ。俺が選んだことなんだから」

「……ありがとう」

男前だな及川。

魔術師が関係者を数名連れて戻ると、及川が別室へ移されることになった。

救世主なので訓練などの苦労もあれば、優遇もされるということだ。

及川はこのまま王宮住まいで、騎士団に混じって訓練に参加など、忙しくなるらしい。

そして残りの4人がどうなるかだが。


「まずは大陸共通語の学習ですね」

「……え?」

「関係者の一部は翻訳魔道具を身につけていますが、皆さんに配布出来る量はありません」

言いながらエドワードは左手親指の指輪を掲げる。

黒い石のついたその指輪が、翻訳魔道具なのだろう。

「ですので、王宮にいる間に共通語の学習をして頂き、その後しかるべき後見人に引き取られるという形です」

「ちょっと、引き取られるってどういうこと?」 

「そのままの意味ですよ。理由なくこのまま王宮に住むことは出来ません。それなりの地位を持つ貴族に後見してもらい、その屋敷で保護されることになります」

「それって皆一緒じゃ……ないわよね?」

エドワードは首を横に振る。

「無理でしょうね」

まぁそうだろう。

4人も一気にお荷物抱えるとかどんだけだ。

「共通語の学習に加え、常識や文化などの知識も必要ですし、基本魔法の勉強も必要です。もし何か他にもやりたいことがあれば申し出て下さい」

「えーっと、俺ら元の世界じゃ学生だったんすけど、こっちじゃどうなるんすか?」

「こちらの世界では成人後に通う学校はありませんよ」

「へ?」

「こちらの学校は未成年しか通えません」

言い方がまずかったと思ったのか言い直された。

だけど滋郎が聞き返したのはそういう意味ではないと思う。

そもそも……。

「この世界の年の取り方は? で、何歳で成人?」

「あぁ……24時間で一日、30日か31日で一ヶ月、12ヶ月で一年。そして1年で1つ歳を取り、16歳で成人ですね」

成人年齢以外はほぼ同じか。

16歳で成人。

それだと1年生2人はおそらく未成年である。

よく海外では日本人は幼く見られるというが、ここではそんなことないらしい。

まぁ海外じゃないけどな。

「皆さん成人されてますよね?」

これで1時間の長さが違うとまた狂ってくるが、まぁいい。

成人に見られるってことは成人してるんだろう。

「俺はしてるみたいっすね。春日さんは?」

「わ、わたしはまだですが、学校はちょっと……」

緊張しているのか、か細い声で答える。

「ではやはり学校は通わないということで。貴族の多くは18歳くらいまで働かず、社会勉強をすることがよくあります。皆さんもとりあえずそうされてはいかがでしょう?」

約2年か。

いきなりじゃあどうしたい?などと言われてもわからない。

猶予があるのは助かった。

「それでは、今日は立ち入り出来る場所の案内ということで、明日から講義を致しますね。講師は私が勤めます。どうぞ気軽にエディとお呼び下さい」

そう言って魔術師はにっこりと笑った。






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