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1-11 道具作り



翌日、道具作りの日。

滋郎の篭っている部屋で色々教えてもらい、実際に作ってみようということだ。

真琴と貴人、エディと何故かリゲルもいる。

春日は精霊の巫女として色々修行中らしい。

部外者禁止なのでさすがに真琴はついていくとは言い出さなかった。

「わかりやすいもので説明しますね」

そう言ってエディは滋郎の試作品を取り出す。

貴人が使わなかった筒状のアレだ。

「キイトさんが訓練場で見た透明の剣と同種ですね。……Щ」

筒の先から水の刃が出てくる。

「手元に彫ってあるこの魔記号が、この武器を維持するためのものです」

刃と固定を意味する魔記号などが彫られている。

ただ属性は指定されていない。

属性は自分で指定出来、発動させなくてはいけない。

「この手のタイプは自分の魔力を使います。が、魔記号だけでこの武器を出すよりも消費量は少なくて済む利点があります。もちろん魔動石を使うように改造も出来ますが、そうすると戦闘中は面倒な上、重くなりますからね」

確かに。

魔動石を持ち歩くのは大変そうである。

「次はこちら。魔動石を動力にした一般的なものです」

以前見たランプである。

下部に魔動石入れがあり、そこからエネルギーを抽出、稼動する。

自分の魔力を使うものと違う部分は、エネルギーを抽出する部分の魔記号だけだ。

これは魔法も同じで、魔力が少ない人間が魔力消費の多い魔法を使う場合、魔動石を使って補うことも出来るらしい。

現時点で貴人たち5人には不要な知識であるが。

「基本はこれだけですので、簡単です。魔記号を彫る専用のナイフがこれですね」

一見彫刻刀である。

違う部分は習っていない魔記号の羅列。

「大抵のものは魔動石で動きます。魔力で動くものは使い手を選ぶので特注が多いんですよ」

以前魔力が多いのは異世界を渡ったからだと言っていたので、こちらの世界の人はそう多くないのだろう。

「このペンのように魔力の消費が少ないものは使えますけどね」

滋郎が改造した万年筆である。

エディとリゲルも持っているようだ。

「ナイフは高いものでもないし数もあるので、お一人一本ずつ持ち帰って結構ですよ」

有難く頂戴して、さっそく道具作りである。



エディの延々と続く魔動具薀蓄をBGMに着々と作業を続ける。

衛生面が整っているのも魔動具何だとか。

風呂とかトイレとか、確かにあって良かったよな。

手元に集中していると、真琴に声を掛けられた。

細かい作業が得意ではない真琴は、さっそく飽きてきたようだ。

「フジム、何してんの?」

「いやちょっと実験……よし」

出来上がったものを軽く投げてみた。

魔動石が床に落ち、発光する。

「おーバッチリじゃん」

なるほどなるほど。

彫られた魔記号が自分に適性がなくても稼動することはわかっていた。

家電もどきが良い例だ。

実験したかったのは魔動石に直接彫り込んで大丈夫かどうかだ。

使い捨てで良いのでいちいち器の用意なんで面倒だし。

「防犯に良いかなと思って。店に置こうかと」

ペイントボールとか目くらましとかそういう類。

イグレッツィオは戦闘向きじゃないし、ちょうどよさそうだ。

今のところあの店に強盗が入ることはなさそうであるが。

「何?」

気が付くとエディとリゲルが呆然と貴人を見ていた。

「……いや……その発想は無かったな、と」

「逆に新しい発想だ」

魔動具で真っ先に出てきそうなものだけどな。

「非常用の水とか火とかにもなるな。属性外のものじゃないと意味無いけど」

「良いですね。キイトさんもジローさんと一緒に開発部で働きませんか?」

「いや俺ケーキ屋だし。滋郎はその開発部で働くわけ?」

「臨時職員って形で良いのでって誘われてるんっす」

「おー、いいじゃん。お前向きだな」

「なんで兼業考えてるっす。あと他にも色々やりたいこともあるっすよ」

「まぁケーキ屋は俺一人でも良いし、好きなことやれよ」

忙しくなったら人員を増やせば良いし、滋郎は滋郎でやりたいことをやるべきだ。

「やりたいことは全部やるんで、ケーキ屋でももちろん働きますよ」

見た目に反して活動的だ。

いや元の世界でもやたら活動的だったけど。

インドアな部分で。


「そろそろメシ作ってくる」

真琴リクエストのオムライスだ。

「見学しても良いか?」

意外だ。

料理に興味があるとは思わなかった。

リゲルと共に厨房へ。

材料は頼んでいたので揃っている。

チキンライスの味付けはトマトソース。

それにスパイスを混ぜた。

この世界にケチャップはたぶんない。

トマトもあってスパイスもあるし、似た様なものは作れるだろうが頻繁に使うものではないので作っていないのだ。

たまごは半熟ふわふわを被せ、最後にスパイス多目のトマトソースをかける。

サラダとスープを添えれば出来上がり。

「手際が良いな」

「元の世界で働いてたからな」

オムライスはたまご工房の人気メニューだ。

休日の昼間など何食作っていたことか。

「そういえばリゲルって普段何してんの?」

「普段……? 来客の対応とか、書類整理とか……」

何か魔女っぽくない。

「魔法も魔術も得意だ。この国で一番の実力だと自負している。だがそれと普段の仕事とは結びつかない」

魔法を使う仕事、魔術を使う仕事、色々あるだろうがそれ全部を一人でまかなうことは出来ない。

何人分か出来たとして、あまりやりすぎるとあぶれる人間も出てくるだろう。

「地位はあるが引退しているというか……相談役、というのか」

引退。

むしろ退職。

確かに定年退職してる年齢ではあるよな。

見た目はともかく。

リゲルを見る。

同じ年頃の女にしか見えない。

銀色の髪がさらりと流れ、綺麗だ。

猫目で美人系。

いいな。

欲しい。

「リゲルは今まで独身?」

現在独身なのは知っているが、今までがそうであったのかはわからない。

700年以上生きていれば結婚したことが数回あってもおかしくない。

「伴侶を持ったことはない。いずれ死に別かれるとわかっていて、一緒になろうとは思えない。それに……大抵は赤ん坊から知っている相手だぞ? 意識出来るわけもない」

「あーそうか、犯罪っぽいわ」

下手すれば相手の両親、祖父母も赤ん坊の頃から知っているパターンもあると。

懇意にしていればなおさら会う機会もあっただろうし。

「それでいうとさ、俺は?」

「は?」

「俺の赤ん坊時代は知らないだろ?」

「知らない、が……」

意図をわかりかねているのか、迷惑しているのか。

返答が鈍い。

「だから、俺を好きになれば良いんじゃないかな」

リゲルの手を握る。

細くてさらさらしている。

「死に別れるって、は年月は違えど誰でも一緒じゃん」

リゲルの顔が若干赤い。

良い兆候だ。

「俺を意識して、俺を好きになって」

その指先にキスしてみた。




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