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1-10 スパイス調合

店のオープンはまだ決まっていないが、ビストロへの搬入は決定した。

向こうの担当者である娘さんのメリッサさんと話し合い、5日後の最後の魔物討伐を終えてからということに。

魔物討伐が日を開けた5日後と決まっているのは、魔物の活動期間の都合らしい。

よくわからん。

とにかくオープンの日取りはビストロの様子をみて、タイミングをはかる。

それまではがっつり仕込み。

宣伝活動としてエディやリゲルに話しておいた。

こういうことやるらしい、という口コミである。

顔が広い二人なのでそこそこ広まるのではと見込んでいる。

紙媒体を使った広告チラシがない世界なので、これが一般的だ。

さてうまくいけば良いが。






「三度目の正直って、言うじゃん?」

「言うな」

「フジムさ、3回とも何もしてないよね?」

「そうだな」

「……せっかく武器作ったのにいいぃいぃ」

部屋の片隅で嘆く滋郎。

滋郎の作った武器は一度も実践で活躍していない。

貴人の武器だけしか作っていないからだ。

「だからごめんって言ってるだろ。しょうがないじゃん、カボチャがあったんだから」

3回目の魔物討伐中、通常の3倍くらいの大きさのカボチャを見つけたのである。

中身もずっしり入っているようで重い。

大きいカボチャは薄味大味なことが多いので、これもその可能性が高い。

しかしまぁ煮詰めれば使えるだろうと一つ、持って帰って来たのである。

「フジムの中では重要なんだね、そこ……」

「ホラ、お前カボチャ好きだろ。かぼちゃプリン作るしさ」

「うぅっ……!」

「パンプキンパイも作るか?」

「くっ……一生ついていきます、先輩! なんでカボチャコロッケも! 是非に!」

「早っ! 早いよジロ!」

カボチャの菓子に釣られる男・宮尾滋郎。


真琴がずずっとお茶を飲みながら思い出したように言う。

「そういえばジロがフジムに懐いてるのってなんで? 中学時代部活違ったよね?」

貴人は途中で辞めたが野球部、滋郎は文芸部の幽霊部員だった。

もっとも文芸部は幽霊部員しかいないような部活だったが。

バイト先は同じだが、それは高校に入ってからのことである。

「俺が自殺しようとしてたとき、先輩に助けられたんすよ」

「うわ、いきなりヘヴィ!」

「やー、先輩いなかったら俺確実に死んでたっす」

「え、フジムが死んだら両親が泣くぞ、みたいなこといったの?」

「まさか」

「むしろお前が死んでも何も変わらないし、無駄死にだろ的な感じっすね」

「……ひどい、ひどいよフジム」

「いや自殺前とか知らねぇし。偶然、偶然」

しかもそんなこと言ってない。

だいぶ違う。

滋郎の中でそうなっているのか、ごまかしたのか。

まぁどっちでも良いけどな。

「なんにせよ救われたのは確かなんっす」

「あー! あーあー、わかった。なるほど、うん」

真琴の中で何か閃いたらしい。

何か思い当たることがあったのだろう。

「というわけで先輩! カボチャプリンとパンプキンパイ、食べたいっす!」

「はいはい。ついでに夕飯も作るか。調味料もスパイスしか残ってないしな」

そうなのである。

液体系・ペースト系の調味料はすべて試食した。

なのに残念ながら醤油も味噌も存在せず。

これはもう開発しろってことなのか。


溜息を吐きながらスパイスを開封。

結構種類があるので舐めてみてから考えよう。

色々組み合わせも出来るだろうし、今日は無難に鶏肉のスパイス焼きでも作ろうか。

上手くいけばカレーも作れるかもしれない。


スパイスを種類ごと器に入れる。

一つずつ舐めていく。

何となく食べたことのある味、まったく知らない味、色々だ。

「ん?」

懐かしい風味を感じ、再度舐める。

「違うか……」

どうやら気のせいだったらしい。

残念すぎる。


鶏肉に合いそうなスパイスを数点選び、調合してみる。

無難な味。

下処理をした鶏肉に塗り込み、冷蔵庫で冷やす。

その間に副菜やカボチャ菓子の準備も進める。

パンプキンパイはさすがに間に合わない。

今日はカボチャプリンにしよう。

大きいが味が薄いカボチャは蒸し焼きにして漉し、鍋で煮詰めた。

面倒だがこうすれば水分がとび、味が濃くなる。


副菜は何にしようか。

せっかくだからスパイス全種類使ってみたいんだよな。

まだ使っていないスパイスを適当に調合していく。

味をみて、合いそうな副菜にしよう。

今日は組み合わせ云々は気にしないでもらいたい。

「あ」

そういうことか。

スパイスは個々の味がしっかりしているが、組み合わせでかなり味が変わるようだ。

日本で手に入るスパイスとはだいぶ違う。

「これは……いいな」

面白くなって来た。

色々実験しよう。





「フジム! これ!!」

軽く興奮状態の真琴がぶんぶんと手を振り、何かを伝えようとする。

わかる、わかるけどわからない。

「先輩! これ!!」

「真似すんな」

本日の献立は鶏肉のスパイス焼き、野菜炒め、ほうれん草のお浸しもどき、白米、味噌汁もどきである。

「醤油! あったんすか!」

「スパイスの調合で味噌とソースと醤油は何とかなる」

問題はスパイスな点だ。

粉末なのである。

水で溶かすと薄くなるので、醤油をかける料理が難しい。

刺身に粉末つけて食べるって何か嫌だし。

柚子果汁で溶かしポン酢にするのならいけるかもしれない。

「フジム最高! 春日チャンとミッチーも喜ぶね!」

「おう。組み合わせを厨房の人に伝えて使ってもらえうように頼んでおく」

春日は一緒に生活しているがまだ帰って来ておらず、及川は騎士団の専用の食堂を利用することになっている。

自分達もそれぞれ別の貴族に引き取られるのなら、各自持って行きたいところだ。

「デザートはカボチャプリンな。パイは明日作るから」

あぁでも良かった。

これで食生活はおおむね満足である。






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