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1-08 英雄の丘


本日の試作はタルトである。

タルト生地にアーモンド生地をいれて焼き、スポンジとカスタードクリームを挟み、フルーツを飾る。

空焼きしてレアチーズを流しても良いな。


同じ生地でクッキーも作れる。

これにはチョコレートクリームを挟もうか。

それからプレートにも利用しよう。

クッキープレートに文字を書くのだ。

お誕生日おめでとう、とか結婚記念日、とかそういうプレートである。

イグレッツィオに確認したところ、文字を書くサービスというのはないようなので売りにしてみることにした。

サービスといっても有料である。

クッキープレート1枚購入で文字入れ致します、と。

この世界ノーグというよりエトランは、無料なものが少ない。

日本でも買い物袋やごみ袋の有料化が進んでいたが、ここではさらにケーキの箱までも有料だ。

紙が高いからかもしれない。

そうなると持ち込みも多いらしく、中には鍋を持ってくる強者もいるとか。

ちょっと見てみたい。



「大分商品も揃ったな」



壁にも花や風景画が描かれ、明るい雰囲気になり他店と比べ遜色のない程度に種類も増えた。

焼き菓子の陳列も籠などの小道具を使い、ギフトも用意してある。

どうにか箱が安く手に入れば、もっと色々出来て良いのだが。


「オープンが楽しみです!」


「客、戻ってくればいいな」


「!?」


元々評判が落ちてこの様なわけで。

そう簡単に戻ってくるかどうか。


と、いうわけで試食と売り込みを考えた。

試食は単純に店の前で配るというだけなのだが。




この町のレストランで、料理はおいしいのにデザートはイマイチ、という店をピックアップ。

その店にケーキを売り込むという案である。

それだけで売り上げになるし、そこで評判になれば集客になる。

オープン前に売り込んでおきたいところだ。

候補は現在、滋郎と二人で食べ歩きをしながら探している。




「あ、そうだ。俺明日からちょっと篭りますんで」


候補のレストランから出て、滋郎が弾んだ声で宣言する。

引き篭もり発言って嬉しそうにするものだっただろうか。


「は? 店どうすんの?」


「先輩に任せるっす! 俺ちょっと急いで武器作りたいんすよ」


「何で」


「魔物討伐2回目、そろそろらしいっす。先輩が無双する武器をちょちょいと」


ちょちょいとってそんな簡単に出来るものなのか。


「なんでリゲルさん誘えばいいんじゃないっすかね。ここの人だし、一応女の人だし」


「一応ってお前……でもそうだな。それも良いかもな」


この世界では初デートである。

リゲルが誘いにのってくれれば、であるが。

好意の有無はどうであれ、かわいい女の子と2人で出かけるというのはちょっといい気分だ。



戻ったらさっそく誘ってみよう。





「マコも来るのか?」


誘ってみて第一声がそれってどうよ。


「いや二人で行きたいんだけど」


「マコも誘いたいんだが」


「わかった。今回はマコも誘う」


でも次回は誘わない。

何が何でも誘わない。


つうかこれ脈ないよな、完全に。





「いやー何かゴメン! すごい期待に満ちた目で誘われたから断りにくくて」


確かにあれでは断れまい。

真琴に罪はないと思う。


城下町の大通りを歩きながら、真琴は手を合わせた。

前を行くリゲルは、おぼろげな記憶を頼りに目印を探している。

いつもは連れて来られているらしい。

一体誰に。


その店は何でも、大通りから細い路地に入ったところにある、知る人ぞ知る隠れた名店であるという。

メニューはなく、おまかせの料理しか出てこないその店は、デザートがないらしい。

中々好都合である。

日本の飲食店はデザートがない店を探す方が難しいが、こちらでは逆だ。

それがケーキ屋が6店舗もあり成り立っていた理由なのかもしれない。


「この国でデザートは家で寛ぎながら食べる、という人が多い」


なるほど。

道理でイートインの出来るケーキ屋がないわけだ。

人数に余裕があればイートインもしてみたいが、今のところは無理である。

そもそも売り上げがないと今の人数から増やすことも出来ない。


ようやく探し当てたその店は、黒い重厚な扉の向こう側。

革張りのソファのある、高級感のある店だ。


「いらっしゃいませ、リゲル様」


「いつもの席は空いているか?」


一番奥の仕切られた個室風のソファ席がいつもの席らしい。


「好みの食材や嫌いな食材を言えば考慮してもらえる」


「あ、私、味が濃いものが食べたい」


確かにこの国は薄味だからな。


「じゃあ魚介系で」


「ではそれで頼む」


「かしこまりました」


一礼して、従業員が下がる。



出て来た料理は魚介のトマトクリームスープと塩の効いたフリット。

野菜サラダのドレッシングはナッツのペーストが入っているようで濃厚。

バケットのトーストはガーリックとトマトの酸味が効いている。


「美味しい! フリット最高……!」


「旨い」


素材は新鮮。

味は濃い目。

特にこのドレッシングはかなり好みだ。

食後にお茶を頂く。

すっきりとした味わいで、消化を助ける効果があるらしい。


「今度滋郎を連れてくるか……」


「それがいいね!」


濃い目の味付けというだけで高ポイントである。


「好評な様で何よりだ。この後はどうする?」


「んー……結構来てるしなぁ。リゲルのおすすめは?」


ネタギレのようだ。


「そうだな。町の外になるが、案内したい場所がある」




城下町の正門を出て右に曲がった。

城下町の外に出たのは2回目。

前回は左に曲がり森へ入った。


ゆるやかな丘を上り、見下ろすと城下町が一望出来る。


「おー!」


丘には巣穴のようなものがあり、その横にはアカの実がたくさんなっていた。


「リゲル、これは?」


巣穴を指差し、尋ねる。


「それは以前話した武器がある祠だ」


なるほど。

その祠は侵入出来ないように結界が張られているようだ。

貴人はまだ結界の魔術を使えないが、知識としては知っている。


「ここは、すべてのはじまりの場所。英雄の生まれし場所」


「英雄?」


「あぁ、アカの英雄だ。すべてを、エトランを創った人物。」


すべてを創ったと言われる人。

国を作った人。


「とても。とても素晴らしい人だった」


リゲルが少し悲しそうに微笑む。

リゲルは700年以上生きているけど、英雄はおそらく普通の人間だ。

700年。

それだけ生きていれば数多くの別れを経験しているはずだ。


「私は英雄の意志を継ぐもの。召喚は英雄の意志であり、私の意志」


「そうしなきゃ、いけなかったんでしょ? 別に私達は恨んでないよ」


「……ありがとう」


恨んでいなくても、真琴はきっとつらい。

春日も、及川も。

滋郎は微妙だが。


「なぁ、逆召喚って本当に出来ないわけ?」


「……今のところ、出来ない」


「ふーん」


今のところ出来ない、ねぇ。

つうことは研究すれば出来るかもしれないってことか?



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