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1-05 春日の悩み



「わたし、これからどうすれば良いんでしょう……」


春日は目を伏せ、力なく呟く。

貴人はりあえず茶を淹れた。

試作のシューラスクも添える。


魔物討伐で一人だけ気分が悪くなってしまったことを気にしているらしい。

大丈夫だ、たぶんそれが普通。

普通じゃない2人と比べてはいけない。


「及川先輩やマコ先輩みたいに戦えないんです」


「戦わなくて良いって」


「藤村先輩や宮尾くんみたいに、働けるお店もない」


高校1年生の5月だし、アルバイトもしたことがない春日にいきなり働き口を探せというのは難しいだろう。

本来ならば高校3年間と大学の4年間という期間があったはずなのだ。

しかも春日は英語科。

この世界で活かせるというわけでもない。

その上いきなりの異世界召喚で、将来のビジョンなんてそうそう浮かぶはずもない。

一番普通の反応をしているはずの春日だが、周りがおかしすぎて思い悩んでいるようだ。


「貴族に引き取られるまでまだ時間はあるんだし、急ぐことないだろ」


そもそもどこの家に引き取られるかということも決まっていないのだ。


「引き取られた貴族の家業を手伝うことになるんじゃないか?」


引き取る方も、視界に入る場所にいたほうが助かるだろうし。


「それが嫌なら……他の職に就くか」


城下町に住むことになるのなら、騎士団に所属か飲食店や販売店。

町の一角にある工場地帯で働くのも良いだろう。

この工場地帯は魔動石そのものや魔動石式の道具、紙、木工品などが作られている。

原料となるものはエトラン国内の地方の村などから運ばれてくる。

市場や中卸というものは特になく、それぞれ商人が個人で切り盛りしていたり、生産者が直に店に売り込んだりする。

地方でも良いのなら原料の生産という手もあるが。


貴人の中で春日のイメージは衣服系の販売店だ。

布は遠方の村や町から運ばれてきて、それぞれの店舗で衣服などに加工される。

よってそれぞれの店は単なる販売店ではなく、製造も行う。

全体レベルで見ると効率は悪いし、費用は掛かるし、価格の変動が激しいと良いことがない。

しかし店によってかなり特徴が出るので、それはそれで面白い。


「春日は何がしたい?」


「何がしたいって言われても……」


「じゃあ何がしたくない?」


「たたかいたく、ないです」


まぁそうだよな。

一番良いのはケーキ屋に引き込むことなんだろうが、自分の店でもないし、そもそも現段階で人が増えてもどうしようもない。


「とりあえず引き取り先が決まるまで、色々見て回ってしてみたいことを探そう。ないならないで条件言ってエディに探してもらうってのも手だし」


気落ちした春日の頭を撫でる。


「大丈夫だって」


考えすぎだ。

真琴と足して2でわればちょうど良さそうである。








春日と別れた後、貴人は調味料試作の昼食を持って、滋郎とエディに合流した。

昼食を食べながら滋郎の開発成果を見る。


「先輩! 遅いっすよ!」


「悪ぃ」


本日の昼食は魚介系焼き飯だ。

透明の魚介系調味料の試作である。

こちらの料理は煮込みとグリルが主流なので、あえて炒め物を多く作ることにしている。

フライパンはなかったが、パスタ鍋という似た様な鍋を発見したのでそれを購入したのだ。

出世払いで。

本来の用途は炒めるのではなく、軽く火を通し絡めるものらしい。

やはり鉄製の鍋が欲しい。

フライパン、中華なべ、強い火力。

炒め物には必須だ。



「じゃーん! こっちの試作一号も出来たっすよ」


「万年筆?」


エディが使っていたペンと同じ型だ。


「この世界のペンはインク内蔵型の使い捨てか補充型なんで、日本と一緒なんすけど」


滋郎は誇らしげにペンを掲げる。

テンション高いな。


「じつはこれ、初の魔術式なんです!」


「噛み砕いて話せ」


何だその魔術式って。





この世界の道具は基本的に魔動石を使用する。

もちろん手動式もあるが。


滋郎の言う魔術式というのは、魔動石を使用しないものの総称らしい。


まず、魔法というのは魔記号を使う5属性の攻撃・防御・補助。

魔術というのは魔法とは別もので、使う魔力は同じだが質が違う。

大雑把に言えば5属性に当てはまらないものが魔術である。

魔記号を刻み、魔法を発動させる道具の類は厳密にいうと魔術になるらしい。

つまりこのペンはそういうことだ。


「使用者の魔力を使ってインクが出るんすよ。つまり半永久的に使えるペン! 補充いらず!」


使用魔力も微々たるものらしいので、この世界なら赤ん坊でも使える。


「たかがペン、されどペン。初めてにしては中々だと思うんすよ」


開発開発言ってたからな。

嬉しそうだ。


「これなら今までのペンもそのまま使えるし」


なるほど。

日本から持って来たペンも魔術式にしてしまえば、インク切れにならないわけか。

とは言ってもキイトは筆記用具の類を持っていないのだが。


「あー早く大物作りたいっす」


「あ。もしかしてあの透明の剣もそういうことか?」


騎士団の訓練を見学したときにみた、あの透明の剣。


「えぇ、そうです。あれは氷の魔法を組み込んだものですね」


やろうと思えば、魔法で氷の剣を出現させることは出来る。

しかしそれだと戦いにくいので、ああいう魔術式の剣を使うのだそうだ。


媒体となる剣に氷の魔記号、刃の魔記号、維持の魔記号などを刻む。

あとは使用の際に魔力を流すだけで良い。

慣れれば魔力を流しつつ、他の魔法を使えるので便利である。


「そうか……良いよな、あれ」


炎の剣とかちょっと憧れる。


「待ってて下さい、先輩! 俺が作るっす!」


それいつになるんだよ。


「滋郎君ならばすぐに作れるんじゃないでしょうか」


「技術革命王に、俺はなる!!」


「うぜぇ」


異様にテンションの高い滋郎を抑えつつ、店に向かった。






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