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1-04 試作

夕方になってから店に篭り、試作を始めた。

菓子作りの基本の本と、イグレッツィオの父親のメモを参考にしている。


滋郎は原価の計算と売価の設定、店の飾りなど細かい部分を見直しを頼んでいるが、商品が決まらないことには動けない。


グレッツには勿論壁に絵を描いてもらう。

看板や焼き菓子を置くテーブル、ベンチにもアカの花。




包装材はどの店も同じものを使っていた。

印刷技術が発達していないので、オリジナルの包装紙はどうしても高くつくからだ。

高いなら作れば良い。


ということで、スタンプを作成。

アカの花と店名だ。

包装紙に押すだけなのだが、中々良い感じである。

包装紙が薄茶色なのでインクの色は赤みのあるオレンジにした。


この世界では包装紙で包み、茶色の紐で閉じ、花を飾るというのが一般的なようだ。

リボンというか布製品が高め。

さすがにもう少し安くないと導入できそうにない。

仕方がないので紐はそのまま、ただし包装の仕方に変化をつけることで妥協。




こちらの世界のオーブンは、見た感じ石釜だ。

少しクセがあるものの、温度調整も出来るし性能はオーブンと変わらない。

ただ燃料が魔動石なので、うっかり燃料補充を忘れるとオーブンが止まる。



「よし、試作第一号の完成っと」


第一号はプチシューである。

どの店にもシュークリームが置いてあったので、それをアレンジしようと思ったのだ。

カスタードと生クリームを合わせ、アカの実を入れてアクセント。

仕上げに粉砂糖を篩う。


プチにしたことにも意味がある。

第一に食べやすさ。

第二に残ったときの処理、である。


「第二号も完成。マコ、試食よろしく」


「任せて!」


出来るだけ色々と意見を聞きたいので、真琴を誘ってみたのだ。


「おいしい! この赤いの、クリームに合うね!」


「アカの実だってさ。そのまんますぎる」


「確かに! 私この実好きだわ。ベリー系良いねー」


ベリー系が好きな女子って多いよな。

逆に男子は好きな人が少ない気がする。

偏見か?


「で、第二号な」


「うん、こっちも美味しい。軽いしサクサクいける。たまご工房にもあったよね」


「そ、あれのサイズ違い。ラスクは小さい方が食べやすいしな」


第二号はシューの皮を使ったラスクだ。

売れ残ったシューの皮をうまく処理するための商品でもある。


「ラスクがある店はなかったし売れないかもしれなけど、とりあえず捨てるよりはマシだろ」


試食を出せば売れる可能性もあるし、何事もやってみないとわからない。

真琴の反応は良いし、グレッツにも試食してもらってから商品に加えるかどうかを決める。


美味しいか、美味しくないか。

売れるか、売れないか。

作業効率が良いか、悪いか。


色々考えて商品を決めていく。




本日の試作はこれで終了。

日中に授業がある日はそんなに長く時間を取れない。

試作品の残りを持って城に戻る。


「あ、リゲル」


「マコ、キイト。出掛けてたのか」


「俺と滋郎が城下町のケーキ屋で働くことになりそうなんだ。で、試作に付き合ってもらってた」


「ケーキ屋? 意外だな」


「フジムは元々家がケーキ屋さんなんだ」


イメージに合わない、とはよく言われる言葉だ。


「あ、そうだ。これ、試食してくれるか?」


貴人はリゲルにプチシューを渡す。

リゲルはこの世界の女性なので、試食にぴったりの人物だ。


「アカの実か。私も好きなんだ」


プチシューを口に運ぶ。


「美味しい。こんなに美味しいシュークリームは初めて食べたな」


「大袈裟。でも、ありがとう」


あまりお世辞を言いそうなタイプと思わなかったので、少し驚いた。

素直に嬉しくもある。


「クリーム、ついてる」


リゲルの唇の端を、親指で拭う。


「うわぁ……」


真琴が微妙な表情で呻く。


「何?」


「何でもない」


苦笑いだ。

リゲルも不思議そうにしていて、真琴は私がおかしいの?とごちる。


「そういえば、何で“魔女”なんだ?」


ふと不思議に思ったことを聞いてみる。

前に少し聞いた気もするが、この際色々聞いてみよう。


「“魔女”は単なる通り名だが……そうだな。その昔精霊の血を浴びた事で不老不死になった。それだけだ」


「不老不死……700年も?」


「このままの姿で700年以上生きている。皆先に逝き、私だけが永遠に取り残される。……だが、後悔はしていない。大切な人を守れたことが、むしろ誇らしい」


穏やかな微笑み。

やさしい表情。


「大切な人?」


何となく引っかかる。

もやっとするというか。


「師だ」


師。

そういえば前に聞いた気もするな。



しかし精霊の血を浴びると“魔女”なんだとすると、他にも“魔女”がいてもおかしくないのではないだろうか。


「精霊の血を浴びて不老不死になるなら、リゲルの他にもいるんじゃないのか?」


「いない。精霊は元々、人の手で傷つけられる存在ではないのだ」


「じゃあリゲルは何で……?」


「精霊によって作られた武器でなら、精霊を傷つけることが出来る」


「精霊って武器なんて作るの?」


確かに。

貴人の中で精霊は自然と一体化して暮らしているような、そんなイメージだ。

妖精でも妖怪でも言葉は何でも良いが、人前に出てこないというか。


「……かなり特殊なことなのだが、この世界に精霊の作った武器が5つある」


「へぇー!」


ますますゲームみたいだ。

勇者がその武器を集めてラスボスを倒す、なんてよくある設定。


「今は封印されているが……そうだな、いずれ向かわなければならない。時が来れば――」








リゲルと別れ、部屋に戻った。

春日はまだ寝ているようなので邪魔にならないよう一番手前の部屋だ。

滋郎は解体に行って来ます、と日本語でメモがあった。

待て、何を解体する気だ。


「何かさ。武器が5つって出来すぎてない?」


「俺も思った」


「私達、本当は巻き込まれて5人なんじゃなくて、わざと5人呼ばれたんじゃないかって思える」


それには同意だ。


「何かあるんだろうけどな」


現時点でそれが何なのかはわからない。

だがどう考えてもその5つの武器が怪しい。

怪しすぎる。


「ま、いっか。その時になればわかるでしょ!」


軽い。

軽すぎる。

ただ今それを考えても答えは出ないのは確かで、それなら他に時間を割いた方が良い。


「それよりも今は店の再建よね!」



その通りだ。

店の再建が第一である。








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