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「七瀬さん、あざといですよねぇ」
またそれ。
また同じ話。
ねえ、それしかないの?
暇なら仕事しろ。
笑顔は崩さない。
「え〜、そんなことないですよぉ」
「七瀬さんて男好きなんですかねぇ」
好きなわけあるか。
「鷲尾さんどう思います?」
——え。
そこで振る?
空気が一瞬止まる。
視線が集まる。
鷲尾はコーヒーを口に運びながら、
特に迷いもなく言った。
「俺はいいと思うよ」
……は?
心臓が、変な音を立てる。
「可愛ければ何でも」
「もう、鷲尾さんたら!」
周りが笑う。
七瀬も笑う。
「やだぁ、適当ですねぇ」
声は軽い。
でも。
最低。
それ、誰にでも言うやつじゃん。
可愛ければ何でも?
じゃあ私じゃなくてもいいじゃん。
——1番嫌い。
そう思ったはずなのに。
なぜかその言葉だけが残る。
可愛ければ何でも。
何でも。
……じゃあ、私は?
可愛い、の中?
それとも、何でもの中?
エレベーターの数字が降りる。
隣にはいない。
いないのに、さっきの声が耳に残る。
最低。
軽い。
適当。
なのに。
どうしてちょっと、嬉しかったの。
やだ。
最悪。
こんなの、違う。
違う。
違うのに。
——私、今、何を期待した?
足が止まる。
胸が、少しだけざわつく。
嫌い。
嫌いなのに。
どうして、引っかかるの。




