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「……離れたほうが、よかったか」
自分でも情けないと思いながら吐いた言葉。
答えは期待していなかった。
むしろ、何も返ってこないほうが楽だと思っていた。
沈黙のまま終われば、
自分の最低さだけで完結できる。
でも。
七瀬が、ゆっくりと息を吸う音がした。
そして。
「……離せるんですか?」
小さく。
静かに。
問いかけというより、確認みたいな声。
一瞬、意味が分からなかった。
離せるんですか。
俺が?
七瀬を?
喉が、ひくりと鳴る。
頭の中で、三日間が一気に蘇る。
呼吸が浅くて。
部屋が広くて。
笑ってる七瀬を遠くから見るしかなくて。
奪われる想像ばかりして。
胸が潰れそうだった時間。
離せるわけがない。
でも。
さっき俺は言った。
最低な独占欲で。
それでも。
七瀬は、怒らなかった。
泣きもしなかった。
ただ今、
静かに俺を見てる。
声が出ない。
離せるかどうかなんて、
考えるまでもない。
「……無理だ」
やっと出た声は、掠れている。
強くもない。
格好もついてない。
本音そのまま。
「無理に決まってんだろ」
今度は少しだけ、はっきり。
視線を逸らさない。
逃げない。
「離せるなら、三日であんなにならねえよ」
笑えない自嘲が混ざる。
「余裕ぶって、分かったとか言っといて」
情けない。
でも、隠さない。
「離せねえよ」
はっきり言う。
それが答えだ。
七瀬の目が、揺れる。
でも逸らさない。
俺はまだ、怖い。
拒絶される可能性。
でも。
さっきみたいに暴れない。
逃げない。
ただ、待つ。
離せるんですか。
あの問いは、
責めじゃなかった。
試しでもなかった。
覚悟を問われた気がした。
俺は今、
初めてちゃんと選んでいる。
衝動じゃなく。
嫉妬でもなく。
怖さ込みで。
それでも。
「離せねえ」
もう一度、低く言う。
七瀬に。
自分に。




