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ロビーで笑ってた、たったそれだけ。
触れてない。距離も普通。
でも。
あんな穏やかな顔、俺には向けてなかった。
三日間、呼吸が浅いまま過ごして。
やっと見つけた七瀬は、
俺がいなくてもちゃんとしてた。
ちゃんと笑ってた。
それが、限界だった。
気づいたら腕を掴んでた。
あいつが小さく抵抗する。
「ちょ、待って」
聞こえてる。
でも止まらない。
離したら、本当に離れる気がした。
エレベーターの中。
七瀬の体温が腕越しに伝わる。
三日ぶり。
それだけで、頭が熱い。
部屋に入りドアが閉まる。
振り向いた七瀬の目。
戸惑い。
でも、拒絶じゃない。
それがまた、理性を削る。
「俺のものじゃなくなるなら」
自分でも何言ってるか分からない。
「もう気持ちなんていらねえ」
最低だ。
分かってる。
でも本音だった。
好きとか。
信じるとか。
そんな綺麗なもの、
今はどうでもいい。
奪われるくらいなら。
壊してでも、繋ぎ止めたい。
壁際まで追い込む。
七瀬の呼吸が速い。
「他の男と笑うな」
嫉妬そのまま。
格好悪い。
でも、抑えられない。
腕を引き体勢が崩れる。
そのままベッドに倒して、上から覆いかぶさる。
七瀬の目が真っ直ぐ俺を見る。
怖いのか。
それとも。
まだ俺を選んでるのか。
分からない。
考えたくない。
三日間、考えすぎた。
自分で考えろって言われて。
考えて。
息ができなくなった。
もう考えない。
今は衝動でいい。
奪われたくない。
それだけ。
七瀬の手が俺のシャツを掴む。
止めるためか。
縋るためか。
どっちでもいい。
逃げないなら、それでいい。
「七瀬」
低く呼ぶ。
返事はない。
でも目は逸らさない。
ここから先は。
優しさも理屈もない。
ただ、俺の本音。
失うくらいなら、
全部壊してでもいい。




