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最悪。
なんで平日ど真ん中に飲み会なんてするの。
せめて金曜でしょ。
「おはようございまーす」
いつもの声。
いつものテンション。
仮面、装着完了。
デスクに座った瞬間。
「七瀬」
うわ。
「はい?」
顔を上げる。
鷲尾。
コーヒー片手にだるそうな顔。
「昨日さ」
「昨日?」
にこ。
「楽しかったですねぇ」
「そこじゃねえ」
なに。
まだ続くの?
「誰でもいいの?ってやつ」
はあ?まだ蒸し返すの?
「なんですかぁ」
「七瀬さ」
「はい」
「論外って、あれ本気?」
「本気ですよぉ?」
なんで確認するの。
「結婚だるいって言う人、無理ですもん」
カタカタとキーボードを打つ。
視線は画面のまま。
本音は、絶対に混ぜない。
沈黙。
珍しい。
いつもなら軽口で流すのに。
「じゃあさ」
「はい?」
「俺が本気だったらどうすんの」
指が止まる。
一瞬だけ。
でもすぐ再開。
「ないですねぇ」
「なんで」
「だって鷲尾さん、本気とか向いてなさそうですし」
ふわっと笑う。
「向いてる向いてないで決めんの?」
「決めますよぉ。人生なんで」
ぱち、とエンターキーを押す。
「私は、ちゃんとしてる人がいいんです」
横目で見る。
鷲尾の表情が、少しだけ読めない。
なに。
その顔。
「お前さ」
低い声。
「ちゃんとしてるの基準、高くね?」
「普通ですぅ」
くすっと笑う。
「逃げない人がいいだけです」
空気が、止まる。
言いすぎた。
いや、言ってない。
今のも半分冗談。
半分本音。
「逃げねえよ」
ぽつり。
は?
「なにからですかぁ?」
「……別に」
だる。
ほんとだる。
何がしたいの。
本気じゃないなら、
触らないで。
でもそれは言わない。
絶対に言わない。
「鷲尾さん」
「ん」
「お仕事してください」
にこ。
「私も忙しいので」
視線を画面に戻す。
心臓、ちょっとだけうるさい。
意味わからない。
うざい先輩。
それ以上でも以下でもない。
なのに。
なんで確認するの。
なんで黙るの。
……最悪。




