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距離を置いて、三日。
たった三日。
なのに、長い。
朝目が覚める。
当たり前に隣にいない。
自分で決めた。
“俺からは連絡しない”
あの言葉が、今さら首を締める。
スマホを何度見ても通知はない。
仕事に集中すればいい。
今まではできた。
恋愛なんて、娯楽の一部だった。
楽しい時間。気晴らし。
でも今は。
資料を読んでいても、
ふと視界の端に七瀬が映る。
笑ってる。
普通に。
無理してる感じもない。
むしろ、少し穏やかに見える。
それが、きつい。
一瞬目が合う。
すぐ逸らされる。
追わない。
追えない。
胸が、じわっと圧迫される。
呼吸が浅い。
ちゃんと吸えない。
深く吸っても、奥まで入らない。
夜。
部屋が、広い。
静かすぎる。
前はここに七瀬がいた。
笑って、文句言って、絡んできて。
泣いた夜もあった。
今は。
何もない。
頭の中だけが騒がしい。
七瀬は楽になってるかもしれない。
そう思った瞬間、
胸の奥が、ぎゅっと縮む。
もし。
離れて、穏やかになってるなら。
俺は何だった。
俺といる時間は、
七瀬にとって、息苦しかったのか。
奪われたくない。
その気持ちは、消えてない。
でも今、
奪われるどころか
自分で手を離した。
正しかったのか分からない。
ただ。
呼吸が、うまくできない。
好きだ。
言葉にしても今は届かない。
離れて初めて分かる。
あいつがいる前提で、
俺は生活してた。
笑う顔も。
泣く顔も。
疑う顔も。
全部。
欲しかった。
今は。
その前提が消えただけで、
こんなに空気が薄い。
「……くそ」
ソファに沈み込む。
楽しくないどころか、
しんどい。
七瀬は今、どうしてる。
泣いてるか。
穏やかか。
俺は。
本気になった。
たぶん、もう遅い。
今さら気づいても、
どう動けばいいのか分からない。
自分で考えろ。
橘の声が蘇る。
考えるほど、胸が詰まる。
呼吸が浅い。
七瀬。
離れて初めて分かる。
俺は、
お前がいないと、
こんなに不安定になる。




