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距離を置いて、三日目。
もっと苦しくなると思ってた。
夜に泣いて、
スマホを握りしめて、
連絡しない約束を破りたくなって、
そうなると思ってた。
でも。
違った。
朝、目が覚める。
胸が、静か。
重くない。
あの「ちゃんと彼女でいなきゃ」って緊張がない。
今日、好きって言われるかもしれない。
今日、また疑うかもしれない。
そんな身構えがない。
息が、しやすい。
会社の廊下。
向こうから歩いてくる。
一瞬目が合う。
本当に、一瞬だけ。
すぐ逸らされる。
約束通りの距離。
その一瞬で、胸はちゃんと痛む。
ああ、好きだ。
今も。
でも。
追ってこない。
触れてこない。
確かめようとしてこない。
そのことに、ほっとしている自分がいる。
それが、一番こわい。
呼吸が、穏やか。
心拍数が、安定してる。
夜も眠れる。
あの腕の中の安心はないけど、
あの“はかられる好き”もない。
はかってたのは、私なのに。
離れて、分かる。
私は、あの人が好きだった。
今も、好きなはず。
思い出せば、ちゃんと胸が締め付けられる。
他の人と笑ってたら、きっと嫌だ。
でも。
離れて、楽になったのも事実。
どっちが本当?
好きなのに楽になるって、
好きよりも、不安のほうが大きかったってこと?
泣いてない。
笑ってもいない。
ただ、静か。
「……ちゃんと好きだった」
ぽつりと出る。
ちゃんと好き。
でも。
好きだけで続けるには、
私はまだ未熟だったのかもしれない。
距離は、痛い。
でも。
この静けさの中で、
私はやっと、自分の呼吸を取り戻してる。
そのことに、
少しだけ安心してる。
そして。
その安心に、
少しだけ罪悪感を感じてる。




