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朝、アラームの音で目が覚める。


…隣が冷たい。


一瞬、心臓が跳ねる。


——いや。


キッチンの音。


フライパンの音。


起き上がると、


髪を軽くまとめて、エプロンした七瀬。


「おはようございます、鷲尾さん」


いつも通り。


昨夜の痕跡なんて、どこにもない顔。


「コーヒー淹れましたよぉ」


軽い。


柔らかい。


泣いてた女と同一人物とは思えない。


「……七瀬」


名前呼ぶ。


「はい?」


小首傾げる。


分かってない顔。


いや。


分かってて、出さない顔。


「昨日——」


言いかけると、


「あ、今日ちょっと早めに出ないとなんですよぉ」


被せられる。


笑顔。


逃げ道、作られる。


昨日。


あれは何だった。


今は。


距離、ある。


近いのに。


キッチンとリビングの距離なんて、数歩なのに。


遠い。


「鷲尾さん、砂糖いります?」


普通。


全部、普通。


俺だけが引っかかってるみたいだ。


「いらねえ」


短くなる。


七瀬は気づいてる。


でも踏み込まない。


コーヒーカップを差し出す指先、


一瞬だけ触れて、すぐ離れる。


昨夜は、あんなに縋ってきたのに。


今は。


触れない。


触れさせない。


何事もなかったみたいな顔。


何もなかったことにしてるみたいな顔。


「……七瀬」


もう一度。


今度は、少し低く。


「ふふ、なんですか?」


笑う。


完璧。


壊れない。


俺のほうが、焦ってる。


楽しくない。


昨日、好きって言ったのに。


伝わってない。


それどころか、


距離、広がってる気がする。


なのに。


奪われたくない。


このまま流れるのも嫌だ。


でも。


どう言えばいい。


昨夜のこと蒸し返すのは違う気がする。


でも放置も違う。


七瀬は、もうバッグを肩にかけてる。


「じゃあ、先でますね」


核心は、まだ触れられないまま。




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