24
朝、アラームの音で目が覚める。
…隣が冷たい。
一瞬、心臓が跳ねる。
——いや。
キッチンの音。
フライパンの音。
起き上がると、
髪を軽くまとめて、エプロンした七瀬。
「おはようございます、鷲尾さん」
いつも通り。
昨夜の痕跡なんて、どこにもない顔。
「コーヒー淹れましたよぉ」
軽い。
柔らかい。
泣いてた女と同一人物とは思えない。
「……七瀬」
名前呼ぶ。
「はい?」
小首傾げる。
分かってない顔。
いや。
分かってて、出さない顔。
「昨日——」
言いかけると、
「あ、今日ちょっと早めに出ないとなんですよぉ」
被せられる。
笑顔。
逃げ道、作られる。
昨日。
あれは何だった。
今は。
距離、ある。
近いのに。
キッチンとリビングの距離なんて、数歩なのに。
遠い。
「鷲尾さん、砂糖いります?」
普通。
全部、普通。
俺だけが引っかかってるみたいだ。
「いらねえ」
短くなる。
七瀬は気づいてる。
でも踏み込まない。
コーヒーカップを差し出す指先、
一瞬だけ触れて、すぐ離れる。
昨夜は、あんなに縋ってきたのに。
今は。
触れない。
触れさせない。
何事もなかったみたいな顔。
何もなかったことにしてるみたいな顔。
「……七瀬」
もう一度。
今度は、少し低く。
「ふふ、なんですか?」
笑う。
完璧。
壊れない。
俺のほうが、焦ってる。
楽しくない。
昨日、好きって言ったのに。
伝わってない。
それどころか、
距離、広がってる気がする。
なのに。
奪われたくない。
このまま流れるのも嫌だ。
でも。
どう言えばいい。
昨夜のこと蒸し返すのは違う気がする。
でも放置も違う。
七瀬は、もうバッグを肩にかけてる。
「じゃあ、先でますね」
核心は、まだ触れられないまま。




