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「……好きだ」
言えた。
逃げずに、やっと。
七瀬の目が揺れる。
そのまま続けようとした瞬間、
腕の中が、静かになる。
息のリズムが変わる。
肩が、かすかに震える。
……泣いてる。
「七瀬」
動きを止めて、顔を見ようとする。
でも、七瀬は目を合わせない。
「……やだ」
小さく。
震えてる。
しまった。
タイミング、間違えたか。
「ごめ——」
言いかけたとき、
七瀬の腕が俺を引き寄せる。
「つづけて…っ、」
無理やり明るく。
でも声、濡れてる。
泣いてるのに、笑おうとしてる。
なんで。
止めたほうがいい。
分かってる。
でも。
七瀬の腕が、強くなる。
縋るみたいに。
焦るみたいに。
「七瀬、待て」
言ったのに。
七瀬のほうが、強くなる。
キスも、深い。
呼吸が荒い。
何かを消そうとしてるみたいに。
俺じゃなくて。
不安を。
疑いを。
何か足りないって思ってる何かを。
激しい。
さっきまでと違う。
どこか、必死で。
「……七瀬、」
止めるべきか。
でも。
拒まれてない。
むしろ、求められてる。
なのに。
胸の奥が冷える。
これじゃない。
俺が欲しかったのはこれじゃない。
好きって言った。
でも。
届いてない。
むしろ、追い詰めた?
七瀬の呼吸が乱れてる。
泣いてるのか、
分からない。
抱きしめる。
今度は、抑えるように。
「……無理すんな」
小さく言う。
七瀬の体が、一瞬止まる。
でも。
離れない。
俺の胸に顔を押しつけたまま、
何も言わない。
なんで。
好きって言ったのに。
どうして、
こんな顔させてる。
どうしたらいいか、
分からない。




