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警戒は、三日でやめた。
意味ない。
あの人何もしてこない。
「わからせてやるよ」
あの声は、嘘じゃなかった。
なのに。
触れない。
近づかない。
目も合わせない。
「これ、修正」
「会議三時」
必要最低限の業務連絡。
他の人には、普通。
……何それ。
逃げたのは私。
距離置いたのも私。
だから正しい。
正解、なのに。
なんでこんなに、
胸が冷えるの。
せいせいするはずだった。
しつこく迫られるより、
放っておかれたほうが楽。
楽、なのに。
あの日。
エレベーターの中で、
私は、覚悟してた。
キスでも、
壁ドンでも、
何でも来いって。
怖かったけど。
でも、少しだけ。
――期待してた。
それが一番、最悪。
「……最低」
本気になったらどうすんだよ、って。
わからせてやるって。
父が言ってた。
「本気の男は、静かだぞ」
静かすぎる。
これが本気なら、
もう、私の出番ないじゃん。
エントランスのガラスに映る自分。
いつもの顔。
ふわふわで、軽くて、愛想良くて。
でも中身は。
置いていかれた子どもみたい。
追ってこない足音を、
無意識に待ってる。
来ないって分かってるのに。
「……やだ」
小さく漏れる。
放っておかれるほうが、
こんなに苦しいなんて。
知らなかった。




