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「俺が本気になったらどうすんだよ」


近い。


近すぎる。


逃げ場、ない。


「あ、いや……その……」


言葉がまとまらない。


目、逸らすな。


逸らしたら終わる。


「私、別に……本気とか……」


声が弱い。


鷲尾の手が、腕から壁に移る。


囲われる。


「逃げんなよ」


「逃げてません」


「逃げてる」


そのまま距離が、もう一歩近づく。


やめて。


その顔。


いつもの余裕、ない。


「七瀬」


名前が、重い。


「軽いって思ってんなら、証明してやるよ」


何を、


「どうやって」


挑発みたいに出た声。


ほんとは震えてる。


鷲尾の視線が落ちる。


唇。


一瞬。


ほんの一瞬。


視線がそこに落ちた。


心臓が爆発する。


——やめて。


キス、する?


するの?


会社。


馬鹿なの?


衝動。


分かる。


この人今、なにも考えてない。


七瀬の胸がきゅっと締まる。


嬉しい。


怖い。


鷲尾の手が、七瀬の顎にかかりかけて、


止まる。


数センチ。


荒い呼吸。


「……くそ」


小さく吐く。


額が、肩に触れる。


重い。


熱い。


それだけで足が震える。


「七瀬」


低い。


でもさっきより抑えてる。


「俺、今ちゃんと考えられてねえ」


心臓、落ちる。


「だからムカつく」


何それ。


「なんでお前がそんな顔すんだよ」


どんな顔、


知らない。


知らないよ。


鷲尾が一歩下がり、距離が戻る。


でも空気は戻らない。


「……本気にさせたの、そっちだからな」


息がうまくできない。


「……意味、わかんないです」


やっと出た言葉。


「分からせてやるよ」


低く言って、背を向ける。


足音が遠ざかる。


資料室に一人。


膝が少し震えてる。


キス、されなかった。


安心。


なのに。


少しだけ。


ほんの少しだけ。


残念だと思った自分が、


一番怖い。




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