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「七瀬さん、今日夜空いてます?」


同期の営業。

名前、正直うろ覚え。


「空いてますよぉ?」


ほんとはさっさと帰るつもりだったけど。


「じゃあご飯どうですか?」


ちら、と視線を感じる。


斜め後ろ。


見なくてもわかる。


「いいですねぇ〜」


わざと、少し大きめの声。


「最近バタバタしてたので、息抜きしたいですぅ」


カチ、とキーボードの音が止まる。


見ない。


絶対見ない。


「じゃあ18時にロビーで!」


「はーい」


軽い。


完璧。


——何してんの私。


夕方のロビー。


隣で楽しそうに話す自分。


笑ってる。


ちゃんと。


「七瀬さんってモテそうですよね」


「え〜そんなことないですよぉ」


慣れた会話。


心はどこにもない。


ふと、入口の自動ドアが開く音。


条件反射で目が向く。


……いた。


視線が合う。


一瞬。


ほんの一瞬。


すぐ逸らされる。


無表情。


でも、歩幅が少しだけ荒い。


何それ。


何その顔。


知らない。


関係ない。


こっちはただご飯行くだけ。


「七瀬さん?」


「あ、はい!」


営業くんの声に戻る。


外に出る。


背中に視線を感じる。


感じるけど。


振り向かない。


——これでいい。


これで。


店に入っても、スマホが気になる。


通知なし。


連絡もなし。


当たり前。


なんで期待してんの。


「ご馳走様でした〜」


「また行きましょうね!」


「ぜひ〜」


楽しくなかった。


全然。


……最低。


エスカレーターを上がり改札を抜ける。


ホームに向かう途中。


柱の陰。


腕を組んで立っている影。


「……何してんの」


低い声。


心臓、急降下。


「……鷲尾さん?」


なんでいるの。


イラついてる。


「楽しそうだったな」


その一言で。


胸が、ぎゅっとなる。


やめて。


そんな顔。


そんな声。


そんな言い方。


好きみたいじゃん。


「普通にご飯ですよぉ?」


わざと軽く。


「七瀬さんて男好きなんですかねぇ?」


自分で自分に刺す。


鷲尾の眉が動く。


一歩、近づく。


「そういうの、やめろ」


低い。


ほとんど命令。


「何がですか?」


心臓うるさい。


「俺に見せつけるみたいなの」


……は?


「……私が誰とご飯行こうが、鷲尾さん関係なくないですか?」


正論。


でも声が少し震える。


鷲尾が口を開いて、閉じる。


何か言いかけて、やめる。


「……ムカつく」


ぽつり。


子どもみたいな一言。


何それ。


何それ。


やめて。


それ以上言わないで。


言ったら。


私、止まれない。


「意味わかんないです」


ちゃんと笑う。


ゆるふわ。


完璧。


でも。


内側はもう、完全に落ちてる。




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