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「なあ、お前って誰でもいいの?」
――は?
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
飲みの席。
笑い声。
酔った空気。
でもその声だけ、やけにくっきり聞こえた。
「なんのことですかぁ?」
いつもの顔で返す。
ふわっと。
角のない声で。
言ったのは鷲尾。
肘をテーブルにつきながら、こっちを見てる。
「橘に絡んだかと思えばあっさり引いて。
で、次は別のやつ? 焦ってんの?」
……焦る?
誰が?
なんだこいつ。
「え〜、そう見えちゃってるんですか? 心外だなぁ」
にこり。
「ちゃんと愛されたいだけなんだけどなぁ」
「ほら、やっぱ焦ってんじゃん」
追い打ち。
最悪。
何も知らないくせに。
誰でもいいわけないでしょ。
むしろ逆。
ちゃんと選んでる。
ちゃんと見てる。
軽い人はすぐ分かる。
本気にならない人も、すぐ分かる。
だから、切ってるだけ。
「んーとぉ、」
グラスを置く。
「大事にしてくれる人、探してるだけです♡」
場が少し静まる。
でも鷲尾は笑う。
「へえ? じゃあ俺は?」
は?
なにその質問。
「ないですね」
にっこり笑って即答してやる。
一瞬、ほんの少しだけ。
鷲尾の目が変わった気がした。
でも気のせい。
どうせ遊び半分。
どうせ深い意味なんてない。
「きびしー」
そう言って笑う。
ほんと最低。
軽い。
無責任。
結婚とか面倒って言ってた人。
ああいうのが一番嫌い。
「七瀬ってさ」
また声。
「本気出したら面倒くさそうだよな」
今度は少し低い声。
……は?
「そんなことないですよぉ」
出すわけない。
本気は、
ちゃんと本気で返してくれる人にしか出さない。
あなたには、一生出さない。
そう思ってるのに。
なんで。
その目。
なんで、ちょっとだけ真面目な顔するの。
――最悪。
ほんと最悪。
この人だけはない。
絶対、ない。




