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(第52章 永井財団で秘書に)



次の日から永井悠一の姿はどこにもなかった。誰に聞いても居場所はわからなかった。電話も繋がらない。財団法人で秘書の仕事をしていたが、誰も永井のことを気にしていないようだった。

「いつも突然、行方をくらませて数週間連絡も取れなくなるのよ。聞くと海外に急な仕事があって飛び回っていたとおっしゃるのだけど、LINEは見ているようなので、日々の報告だけは忘れず入れておいてね」と先輩秘書たちが苦笑しながら教えてくれた。

その言葉どおり、2週間後、永井は明らかに海外旅行から帰ってきたかのようにサムソナイトとたくさんのお土産を持って戻ってきた。

「どこにいらしてたんですか?」と美子が聞くと、「ほら、あのパーティで名刺を渡した女性?いや、男性の国へ一緒に行っていたんだ」と満面の笑顔で応えた。しかし、それ以上のことは語らない。ただ、お土産にはアラビア語らしき文字が連なっていた。さらに、永井の鼻歌は今まで聞いたことのないリズムを奏で、体臭も異国の香りがした。

帰国してからの永井は、居なかった分を取り戻すかのように精力的に動いた。美子も永井の専属秘書のように、どこに行くにも同伴させられ、幸せだった。頭のキレの良さ、仕事の処理能力の高さ、スピーディさ。話題がころころ変わるので、カンが良くないとついていけなかった。

「美子ちゃんは今までの秘書の中でもトップクラスだね。思ったよりも優秀だから助かるよ」と言われて、直に喜べなかったのは、まだ上がいることを示唆されているからだった。実際、永井の周囲には美しく才能溢れた独身女性が多く、その誰とも付き合っていない様子に救われた思いだった。しかし、内心そんな美女たちと出かけ、遅くまで帰ってこないと心配で眠れなかった。

日に日に永井のことが気になり、ますます好きになっていく自分を止められなくなっていた。留守の部屋を片付けながら、そっと彼の匂いに包まれて、一緒に添い寝した時のことを思い出して胸が高まった。

仕事も認めてもらいたくて、睡眠も取らずに頑張っていたら叱られた。「健康管理は社会人の大切な仕事だよ。長く働いていたらいいってものじゃない。夢中になったら時間を忘れてしまうことだってある。でも体を壊したらおしまい。周囲にも迷惑をかける。だから早寝早起きなんてことは言わないけど、十分な睡眠だけは取らないと。お肌にも悪いよ」と半分冗談めいて言った。

しかし、仕事量は半端ではない。やってもやっても片付かない。一旦取り掛かると途中では辞められない体質なのだ。

しかも、永井こそ、眠っている姿を見たことがない。ほとんど家にも帰って来ない。先輩秘書たちは、優秀すぎる美子の存在を疎ましく思っているように見えた。孤独だった。悠一の姿を毎日のように求めていた。

あの出会った朝のことが、まるで夢の出来事だったように記憶が薄まっていく。たまにsnsの中の三上の姿を探しては、余計に煙に巻かれたような心境になった。ユーチューブで、ニューヨークの国際会議に出ている悠一の姿を見つける。『世界中を駆け巡る悠一社長の、あの胸で抱かれた。あのフレグランスの香りは、もうベッドに顔を埋めてみても香らない。広い永井家には、いつものような使用人たちの賑わいも無い。まるで、別荘の管理人のように、ただただ美子は主人の悠一の帰りを待っていた。






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