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(第4章 父の優しさに包まれて、束の間の幸せ)



昨年、祖父が亡くなった。そして、中国系の母と父は離婚したようだった。実際、中国語で二人は喧嘩ばかりしていた。美しい母だったが、怒ると豹変し、歌劇のようだった。大きな屋敷なのに、どこにいても母のヒステリックな声はこだましていた。

「頭のいい女は気が強い。優秀なだけに、妥協は絶対にしない。やはり、やまとなでしこのほうがいい」

と父は苦笑していた。

祖父の四十九日には姿を見せなかったから、離婚は成立したのだろう。そして祖父の一周忌のときに、二十歳という若過ぎる母を紹介された。最初は冗談かと思った。父との年齢差は二十五歳だった。親子ほど違う年齢に、皆は驚きを隠せなかった。

名はヒトミだと言った。

「カタカナなんだ」と聞くと、

「クオーターだからね」と笑った。

「どこの国の血が混ざっているの?」と聞くと、

「大阪人と新潟県かな?」と、とぼけてみせる。

「なんだ、冗談か」と言うと、「恋多き母の相手の国籍なんて知らないわ。 本人だって、誰の子かわからないんだから」と口を尖らせて言う。

『どんな母親だ?』と思ったが、苦笑して追及をやめた。父は、

「やっぱり年齢が近いから話が合うだろう」と、ご機嫌だった。

ヒトミママの前では、父も子供のように無邪気で温厚になった。その目は、女性というより、娘を見るかのように、愛おしげに包み込む目をしていた。こんなに優しい父を、悠一は見たことがなかった。

忙し過ぎる仕事も一段落し、祖父も亡くなって、肩から重たい荷物を下ろせたような安堵感が感じられた。父は信じられないくらい、よく笑った。ヒトミママも、冗談ばかり言って周囲を和ませていた。

『さすが関西人はすごい』と、芸人のようなボケとツッコミに感心していた。今までの不穏な空気を、笑い飛ばしてくれているようにさえ思えた。

父の仕事も、この時期は波に乗っていた。だから「これ以上の富はいらない」と言って、祖父の遺産を放棄したらしい。多額の遺産は、祖父が言っていたように、悠一にすべて相続された。

弁護士の奥野先生が、

「成人されるまでは、私が泰造様より仰せつかり、悠一君の後見人となります。お父様の俊一氏は相続放棄なさっていますので、莫大な相続税対策として三つの財団法人を設立しております。どうぞご安心ください」

と言ったが、簿記も経理も税制なんて無関係な年なので、悠一には何のことなのか、さっぱりわからなかった。




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