(第48章 再開を祝う二人だけの夜)
ふと気づくと、美子と永井悠一だけがダイニングに残る形になっていた。それに気づいた悠一が、「そういえば、新人?いつから働いているの?随分若くて美人だけど、名前は何て言うの?」と話しかけてきた。
「お久しぶりです。5年前に助けて頂いた田中美子です。覚えていらっしゃいますか?」と聞いてみた。悠一はしばらく首をかしげていたが、「あの時の家出娘?」と言って、ハッとした様子で「全然変わっているのでわからなかったよ。随分綺麗になったね。どうして、ここに?」と優しい声で訊いてくれた。
『この声だ。ずっと聞きたかった。話をしたかった』と胸がいっぱいになり、声が出なくなってしまった。
「もう遅いけど、ちょっと話さない?確か海外に留学してたはずだけど。成績も優秀だったし、語学力もあるし、それだけのスキルと経験があれば有名商社の秘書でもやっているものだと思っていた」と驚いている。
「永井社長の経営されている会社に入社したくて、就職活動したんですが、今年は募集していなくて。たまたま、ここの使用人のポストが空いたと教えてもらえたものですから、3か月前からここで働かせてもらっているんです」と美子が答える。
「もったいない。こんなところで、美子ちゃんの能力は活かせないだろうに」と言って、美子を近くのソファに座らせる。
久しぶりに愛称を呼ばれて胸がキュンと跳ね、みるみる赤面しているのがわかる。悠一は冷蔵庫を開けてシャンパンとグラスを2つ持ってきて、「飲めるんだろう?もう成人してるものね」と気さくに言う。
「私が持って参りますのに」と言うのも制して(勝手知ったる我が家なんだから。座ってて。もう、就労時間外だろう?)と言って、お皿にピクルスや生ハムやチーズやナッツ類を手際よく盛り合わせて持ってきてくれた。そして、シャンパンを威勢よく抜いてシャンパングラスに注ぎ込み、美子にも持たせて「再会のお祝いをしよう」と言って高らかに「いやさか」と言ってグラスを合わせる。
美子も遠慮なくグラスに口をつける。「美味しい」と思わず呟いた。「さすが、いつもいいシャンパンを冷やしてあるなぁ。ウチの両親はワインには目がないんだ。でも明日から海外で当分帰らないから、飲んじゃおうかな?」と美味しそうにグラスを一気に空け、手酌でシャンパンを注ぎ込む。
手を出そうとするのだが、悠一の方が手慣れていて、オードブルも器用に爪楊枝に刺して美子に勧めてくれる。そして、優しそうな透き通った声で次々と質問をしてくる。美子はあの出会いの日からの長い長い物語を話していた。




