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(第47章 世界の情勢が一望できる地下室)



食事を終えて地下の会議室に行くつもりだと気づき、遅れないよう美子も後を追った。地下に部屋があるなんて気づかなかった。なるほど、忍者屋敷のようなカラクリが何か所か施されていて、永井社長に連れて行ってもらわなければ辿り着かなかった。最後の扉にあるパスワードの桁数の多さにも驚いた。セキュリティも厳しく、まだ通行証が発行されていない美子が入るためには、永井社長の承認パスワードと質問がいくつも入力しなければならず、中に入るまでかなり時間を要した。

「思い付きで新しい人を招待するのはいいけれど、これだけの関門を潜り抜けなきゃダメだって、あの人はご存じなのかな?ほら、50歳過ぎると、いきなりSNSが使えないんだ、日本人は」と文句を言っていた。「そもそも、お父さん自体入れるのかなあ?まあ、入れなきゃ連絡あるか」と言いながら扉を二つ過ぎた時、いきなり目前にどこかのゲームセンターのようなコンピュータールームが出現した。

先ほどの男性たちが、それぞれ3つのモニターの前に座り、ブラインドタッチしていた。真ん中のモニターだけは共通で、そこにチャット方式でどんどん書き込んでいる。左右のモニターには海外とのライブが映し出されているが、音だけはイヤホンで、それぞれが聞いて反応していた。その映像を見渡すだけで、世界中が覗けるような気がした。

「まだまだ翻訳アプリだけじゃ、何を言っているのかわからないことが多いんだ。だから、ニュアンスがわかるところだけでいいんで書き添えてくれる?僕もできる範囲でやるから」と頼まれ、一番奥の大きなスクリーンの前に二人揃って並んでモニターに目をやった。「すごい。よく、こんな優秀な現地スタッフをチョイスしているものだ」と驚くほど情報を持っていたし、その分析力もすごい。もっと驚いたのは永井社長の処理能力の高さだった。とても美子にはついて行けない。英語とフランス語にしか反応できなかった。それでも永井社長が「なかなか役に立つね。ほとんどの国からの情報は英語で来るから、その分を担当してくれるだけで鬼に金棒だよ」と褒めてくれた。

同じフロアにいるメンバーは、それぞれの担当地区の情報を汲み取り、データ化して真ん中のスクリーンに送ってくる。時間や単位がわからないので、その内容には永井社長がおびただしい数字に難色を示していた。美子が理解できるのは、二日前に東南アジアで起こった地震のせいで、各地に波及している経済の波のことくらいだった。

3時間後、作業を終えたメンバーが席を立ち、永井社長と言葉を少し交してフロアから出て行った。最後の男性が出て行くと同時に父親の俊一が入ってきた。「データ処理は終わったのか?」と挨拶もせずに、いきなり内容に迫る様子は、せっかちな経営者にありがちだったので、美子も別に違和感はなかった。しかし、父親の方を一瞥もしないでモニターに向かってタイピングしている永井社長の姿は、先ほどの温和な様子はなく、機械的で無機質だった。

モニターが分析内容を説明し始めたので、父親もそのモニターに注目していた。目で『もう部屋を出ていいよ』と言っていたので、美子はそっと部屋から外に出た。入口と出口は違うようで、迷わずキッチンまで帰ることができた。「お疲れ様。お飲み物、ご用意してますから頂いて、お休みください」と女給頭に言われて恐縮したが、まだキッチンにはオタク系男子が数人残っていて、デザートやお酒や好きなものを、それぞれ好きなように頂いていた。皆がかなり疲労感でへたっているのがわかる。

飲み物を頂いて、美子も想像以上に疲れていることに気がついた。頭をあれほど使うことなど日常にはありえない。内容が難解なせいもあるが、ただでさえ行間の意味を取り違えそうになるのが、こうしたチャットやラインの難点でもある。

その上、情報量が多く、和訳するだけで精一杯だった。それでも、心地よい労働の後の充実感があった。夜の9時だった。

皆が別々のテーブルで一人で飲んでいるのだと思っていたが、手にはスマートフォンが握られ、互いに交信していることに気がついた。直接話をするより、こういう人種は安心できるのだろう。顔色を見る必要もなく、互いの人生に関心を持つこともない。好きなこと、興味のあることだけに邁進しているから、才能は磨かれているのだろう。

見れば、パーカーにジーンズ姿や上下のスウェットなど、カジュアルすぎる格好をしている人も多かった。髪も無造作で、長年切ったことがないのか、長い髪を後ろで束ねている男性もいた。『新人類?』と、それでも愛おしそうに皆の様子を眺めていた。

しばらくして永井社長親子が顔を出し、皆の功労を称え、本日のギャラ分の電子マネーを受け取るようにとお礼を言った。皆はタッチパネルにかざして、それぞれのカードにギャラをチャージした後、帰って行った。

本日得た情報を他言しないよう、一筆サインをした。住む所も、何人かもわからない人物もいるらしい。日本はスパイ大国なので、各国のスパイがディープな情報を売りにアクセスしてくる。そして、優秀な人材だけを使って、このような情報処理を行っているようだ。

マキコ女史もパーティから帰られ、永井社長に紹介だけされていた。まるで他人行儀な親子の挙動不審な様子に、美子は失笑するしかなかった。マキコ女史も居心地が悪いようで、そそくさと父親の俊一氏と自室に退去した。







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