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(第41章 髪を切って大変身)



「失恋した時、髪を切るのはなぜだかわかる?」と聞かれて、頭を横に振ると、葵はこう言った。

「髪には邪悪なものがあるって言われているのよ。奴隷は髪が長いんだって。自立している女性の髪が短いのは、そんな邪悪な念を切るからなんだって。今までの過去のドロドロしたものを切って、軽やかに生きて欲しいな」

そう言われ、葵オススメの美容院に行くことにした。

「ここの美容院は、ちょっと高いけど腕は確かなのよ。世界のコンテストでも連続優勝したくらいだから、いつもお任せ。下手にリクエストするよりも素敵になるから、騙されたと思って任せていいかしら?」

わけもわからず言われるがまま、カットとカラーを入れてもらった。少しずつ髪が軽くなると同時に、鏡に映し出される自分の姿を不思議な気持ちで見ていた。

出来上がりを見た葵は「すごい、別人みたい」と目を丸くして驚いた。美容師の男性も満足げで、「いかがですか?」と呆気に取られている美子にご満悦の様子だった。

「ウソみたい」と呟く美子に連れられ、百貨店を周る。一流ブランドが集中しているため、バッグや財布や靴を選ぶのには最適らしい。

疲れてお腹が空いたと思ったら、もうお昼。葵オススメのランチは、梅田阪急百貨店の12階にある、京都が本店の「キャピタル東洋亭」。レストラン街に上がると長打の列ができていた。やっと席に着くと、葵が包み焼きハンバーグのランチセットを頼んでくれた。

運ばれてきた包み焼きのアルミをナイフで開くと、アツアツのハンバーグと、柔らかいお肉がゴロゴロ入ったビーフシチューの湯気と薫が食欲を誘う。添えられた丸ごとポテトは甘く滑らかでホクホク、バターがとろけて絶品だ。一度食べたら忘れられない味は、明治の初めから京都で親しまれた洋食屋の元祖だ。まるごとトマトのサラダも、この日は熊本産で甘さと酸味のバランスが絶妙、感動ものだった。

「こんなの初めて。美味し過ぎる」と、美子は思わず笑みをこぼす。

「もっともっと美味しいものいっぱいあるんだから。連れて行ってあげたいなぁ。ほら、初めてって特別だもの。そんな思い出に残る瞬間に一緒にいるだけで、こっちも嬉しくなるの」と葵もご機嫌だ。

「その髪型に似合う洋服、探しに行こうか? 楽しくなりそう。ここからは私のファッションセンスの見せ所なんだから」

「葵さんに、全てお任せします」と美子は仰々しく頭を下げた。

「任せとき」と葵も笑った。

そこから若者のファッションビルの中の葵オススメの店を次々回り、洋服も靴もバッグも、両手に持ちきれないほど買って、ホテルまでタクシーで帰ると、すでに5時を回っていた。

葵は買ってきた洋服を広げ、シャワーを浴びた美子を大きな鏡の前に座らせて、メイクを始めた。ソフトなタッチで繊細な指さばきは、プロの技なのだろうか。眉を整え、マスカラを施すと、まるでファッション雑誌のモデルのようだ。

買ってきたワンピースはインポート物で、大胆なデザインなのにセクシーかつキュート。色は淡いピンクで、裾に小さな花々が散らされている。

「まぁ、かわいい」と葵は目を見張り、姿見に映る美子の後ろでドヤ顔をしている。「女の子は綺麗にしておかないと、幸運が逃げちゃうぞ」と満面の笑みで優しく包んでくれた。

買ってきた白いコーチのバッグに、ディオールのピンクの財布を入れ、財布の中に3万円と、永井社長から借りてきたというカードを入れてくれた。

「滞在中は、このカードを使うといいわ。たいがいの物はカードで買えるけど、現金もいることがあるから、入れておくね」

「お金ならあります。母が持たせてくれたから」

「これから、いくらあっても邪魔にはならないから、もらっときなさい。他人の好意には甘えないと、可愛くないわよ」と姉のように諭す。

困惑していると、葵は快活に笑いながら、「いいから、いいから。永井社長にとっては、困っている女子を助けるのはライフスタイルのひとつなんだから」と言い、ティファニーのオープンハートをつけてくれた。

「これで、どこから見ても、淑女ね」と葵はご満悦の様子だった。

7時に待ち合わせと言うので、タクシーに乗った。







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