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(第2章 記憶の錯乱)
母は幼い頃に亡くなったと言うのだが、死んだ記憶がどこにもないのは、どうしてなのだろう。使用人が「毒殺されたのよ」とか、「自殺したみたい」と囁いているのを耳にしたことがある。あの白く柔らかな肌に、もう触れることも、顔を埋めて眠ることもできないのだと知って、とても寂しかった。
「母さんは?」と泣いている悠一に、
「今日から、私がママよ」
と美しい女性が言って、抱き上げてくれた。あんなに軽々と抱き上げられたのだから、きっと小さかったのだろう。
記憶も、母なのか、その女性なのか。重なって、もはや同一人物ではないかとさえ思えてくるのだから不思議だ。実際、二人は似ていた。父の趣味が同じなのかも知れない。
それから、何度か母親が変わった。父はすぐ飽きるらしく、新しい母親は数年いたかと思うと消え、また新しい母親が訪れる。どの母親も、生粋の日本人ではなかった気がする。英語を話していたかと思うと、次の母は中国語を、という感じで、皆すらりと痩せていて、モデルのように美しかった。




