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(第27章 精子が危ない)



奥野弁護士は元々、悠一の父・永井俊一の顔見知りだった。お互い、産婦人科で出会い、互いの症状が同じだったため、俊一が「自分の弁護士に」と名指ししてきたのだ。二人は同じ障害を持っていた。

ひと昔前は、子供ができないのは女のせいだと言われ、攻められたものだった。しかし、医学の進歩は細胞やDNAの解読まで可能にし、男性の精子の異常が明らかになった。弱い存在として市民権のなかった女性たちは自立し、むしろ「子供は欲しいけれど、旦那はいらない」と言う者が増えた。なんなら、優秀な精子を購入してシングルマザーで子育てした方がいいと考える女性まで現れた。セックスなどいらない。愛し合わなくても子供は産める。

女性に選ばれなければ、自分の子供も持てない男たち。責任を果たさず、女性を抱いて子供ができても養育費を払わない男に、依存しなくてもいいと考える逞しい女性たち。しかも、結婚しても子供ができない夫婦の多さに、社会は歪な人口減少に悩まされている。出生率は低く、代々の家も墓も継ぐ者はいない。老人だらけの社会。生産性のある若い労働は介護産業に取られ、日本の経済は疲弊している。

その上、経済力のある奥野や俊一氏に突きつけられた残酷な告知――精子に異常があり、子供ができないという事実。未来を託せる子孫は望めないという。どれだけ女性を愛しても、結ばれない。自分の子孫のない未来のために、なぜ夢中になって仕事をしているのか。誰のために生きているのか。進んだ化学や医学のせいで、赤裸々に解明される事実。知らなければ、妻の裏切りにも気づかず、自分の子供だと信じて幸せな家庭を作っていただろう。

俊一は、『【産みの母より育ての母】とも言うじゃあないか。犬だって小さい頃から可愛がって育てれば、家族以上の存在になるのだから。知らずに、あのまま愛情をかけて育てることができたなら、本当の親子関係が築けたのではないだろうか』と、20年以上も昔のことを後悔していた。別れを繰り返し、次々と人生の伴侶を求めても、やはりカスミほど愛せる女性はいなかった。一番愛した女性の子供を憎んで退けたのは自分だった。しかし、立派に成長した悠一の姿を見ると、カスミの姿を彷彿とさせ、愛情が迸った。この複雑な心情を時に話せるのは、ずっと近くで悠一を見守ってくれた、同じ傷を持つ奥野しかいない。







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