(第20章 浮気、殺人、隠された真実)
悠一がまだ3歳の時、悲劇が起こった。俊一が出張を取りやめて家に帰ると、妻の不倫に出くわしてしまった。しかもその相手は父だった。
身の毛のよだつ不倫現場で、成す術もなく頭をうなだれる俊一。父の泰三は陳謝するしかなかった。しかし、カスミがこう言った。
「私は永井家の財産を継承する子供を産み育てているだけ。あなたは忙しくてご存じないでしょうけど、悠一は泰三さんの子供として養子縁組も済んでいるのよ。泰三さんが亡くなった時、あなたが相続税で困らないようにと。しかも悠一は、あなたが亡くなった時には妻の私と全ての泰三さんの財産を相続することができるのよ。すごいでしょう? これが私ができる精一杯の恩返しだと思ってる」
カスミはシーツで裸の体を包み、笑顔で俊一に近づいた。「あなたのこと愛しているから」と言ったが、その言葉は俊一の耳には入らなかった。
生暖かい夏の夜のことだった。怒りにかられ、俊一は妻を殴った。女を殴ったことなど一度もなかった。しかし、ラグビー部で鍛え上げられた俊一の破壊力は凄まじく、打ちどころも悪かったのかもしれない。たった一撃でカスミは亡くなった。そして俊一の心も砕け散った。
精神を病んだ偶発的な事後として、カスミは喪に伏された。泰三の悲しみはいかほどだったかはわからない。ただ、その日から姿は見えなくなった。
アルツハイマーかどうかはわからないが、随分前から入るつもりだった高級介護施設に移り住み、悠一が中学生になるまで生きた。しかし、会うことは一度もなかった。いや、幼い悠一には告げられることはなかったのだ。




