(第11章 絶対絶命の危機)
二日目、状況が変わったのが犯人たちに気づかれた。「警察に連絡したに違いない」と犯人たちは怒り、悠一を山奥で車から引きずり降ろした。そして、自分の死体を埋める穴を掘らされた。立っていられないほど体は憔悴していたが、後ろから叩かれ蹴られるので、休まずシャベルで硬い土を掘る。
『どうせ、三か月前に父から嬲られた命だと思えば惜しくはない』と思う。しかし情けなく、涙がにじむ。『父はなぜ救ってくれないのか?』と恨んだ。全ての種を蒔いたのは自分なのに、父を呪った。『親なのに、子供が殺されそうになっているのに、平気なのかよ?』と怒りをぶつける。頑強だと思っていた父を精神的に追い詰めたのは自分なのに、それを棚に上げてしまう。頭の中はぐちゃぐちゃで、何かのせいにしたいが、見つからない。後悔しても、苦悩は遠ざかるわけではなかった。『仕方ない』と諦めるしかなかった。やがて、『父は自分を亡き者にするため、犯人の要求に応じないのでは?』との疑念まで湧き、被害妄想で泣いた。犯人たちの口汚い罵倒に、精神もボロボロに破壊されていたのだ。
父の愛など信じていないと言えども、自尊心は粉々に破壊され、自暴自棄になっていた。
でも、どこかで信じたかった。身代金一億円くらい、払えない家ではない。むしろ安いくらいだ。そのことも、余計に悠一のプライドを傷つけた。『あのまま、大きな穴に埋められてもいい』とさえ思い、観念していた。『他人を傷つけるくらいなら、自分の身を差し出した方がマシだ』などと真剣に思っている、15歳の青い少年だった。
『自分は愛されていない。それどころか、すべての禍の元凶なのだ。父の女を寝取った悪ガキなど、殺したいほど憎んでいるから、一億すら金を用意してくれないのだ』と思い、『棄てられたのだ』という悲劇に酔っていた。
その時、突然隼人が二人のチンピラに襲い掛かった。犯人の一人をポケットに入っていたシャープペンひとつで殺した。
こめかみに刺さったシャープペンシルを抜くと、鮮血が噴き出した。
怯えるもう一人に、絶命した相棒の体を投げつける。一緒に穴に落ちた二人の上に、掘り起こした砂をかける。泳ぐように這い上がる男の頭めがけて、近くにあった岩石を振り下ろす。そこまで見ていた悠一の記憶は途絶えた。




