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14話

 夕方。時刻はすでに午後五時を回っていた。空は夕日に染まり、辺りもオレンジ色を帯びていた。

「んーっ、なかなか楽しかったねー」

館内を出た後、時守がそう言いながら伸びをする。

「私、二人のおかげで今日すっごく楽しかった! ありがとね。夏凪さんは夏休みの課題書けそう?」

「まあね。私も、今日はそれなりにまあ、退屈はしなかった」

「もう、素直に楽しかったって言いなよー」

『ぷぷぷー。言われてやんの』

横から時守とクロノスがにやけ面をしている。はぁ、いちいちムカつく顔をするやつらだ。

「はいはい。まあ、私も楽しかった。……ありがとね、誘ってくれて」

私が白雪の方を見ながらそう伝えると、白雪の目からうっすらと涙が出たように見えた。彼女はメガネを一瞬だけ外し、顔を下に向け、服の袖で目を擦る。

そうして表情を整えたら、また私の方に顔を上げて、にこりと笑う。

「うん。また遊びに行こうね!」

「うん。いいわね」

夕陽の優しい暖色が、私たちの今の心境を表しているようで、なんだか感慨深い。夏だけど、不思議とその暑さが今では心地よく、暖かくもさえ感じた。

「じゃあ、そろそろ帰ろうか」

「そうだね」

 そうして帰路に着こうとした時のこと。

「ぐっ……」

 急に、左胸のあたりが苦しくなった。手で心臓を握られているかのような苦しみ。……この感じ、前と同じだ。夜中に目を覚ました時や、バスの中で襲われた、謎の胸の苦しみ。それが今、再びやってきた。

「ぐっ、くっ……」

 あまりの激痛に、体が崩れ落ちるようにその場へしゃがみ込んだ。左胸が、締め付けられるように痛い。というか、血反吐でも出てくるんじゃないかと思うくらいの激痛だ。もはや、これ以上思考も回らないほどに。

「夏凪さん。ど、どうしたの?」

「えっ、ちょっと、大丈夫かい!?」

 二人の心配する声が、隣から届けられる。けれど、だんだんと二人の声が遠のいて聞こえてきた。瓶の中にでも閉じ込められているかのように、声がぼやけて聞こえてくる。周りの音という音に霞がかかったみたいに。

「……めん。……私っ、ちょっとお手洗い」

「ちょっと、夏凪さん!?」

 私はひとまず、近くに設けられたトイレへと駆け込んだ。口から鉄の味をした何かが、出てきそう。考えるより先に、本能的にトイレの便器に顔をつけた。それと同時に、口からドロドロっとしたものが、喉の奥から押し寄せるように流れ出る。まるでホースから噴射された水のように。

 ……口から鉄の味がした。視界がぼやけてよく見えなかったが、その口から出たものの正体は、……血。

大量の血が、自身の口から流れ出ていたのだ。

私はその瞬間に、もうろうとした意識の中、理解した。……私は、吐血したのだと。

「夏凪さんっ!」

後ろから駆け寄るように、白雪がやってくるのが背中越しにわかった。

 その瞬間。テレビの電源を引き抜かれたみたいに、私の意識は途切れた。

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