王太子妃サバイバルに敗れた令嬢はギフトの黒猫に救われます
「第7回小説家になろうラジオ大賞」参加作品です。
【キーワード サバイバル ギフト】
「だからよー。とっととやっちまおうぜ。俺はもううずうずしてるんだ」
「……」
じめじめした地下牢の中。私の前でがらっぱちな口をきくのは一匹の黒猫だ。この異常事態になった経緯を話すと。
私は公爵令嬢。王太子妃候補の一人だった。だったというのは他の候補に呪いをかけたという冤罪でただいま絶賛入牢中だからだ。
私は王太子妃になんかなりたくなかった。文章を読んだり書いたりするのが好きで「作家になりたい」と言ったら、父に「仮にも公爵家の娘なんだ。そんな勝手は出来んわ」と一喝された。
やりたくもない王太子妃サバイバルに参加する羽目になった私。家格だけは高かったため、一方的にライバル視された。そして、冤罪を着せられて入牢に至る。
亡くなった母方の祖母だけは私の境遇に同情してくれた。その祖母がいまわの際に一つのオニキスを私にくれたのだ。
「このオニキスにはギフトが込められている。私は幸い使う機会がなかったけど、危機に陥ることになったらきっと助けてくれるよ。かわいそうにあんな百鬼夜行の世界に無理やり入れられて」
そして私は危機に陥った。オニキスのギフトが発動した。で、目の前にいるのがこの黒猫なわけだ。
黒猫が問いかけてくる。
「だけどおまえ呪いって何をしたんだ?」
「何もしてないよ。時折激しい頭痛がするんだってさ。それが私の呪いのせいらしいよ」
「それって気圧のせいじゃないのか?」
「私もそう思うけどさあ」
「ああもうメンドくせえ」
座っていた黒猫は立ち上がる。
「おまえをはめた奴らを皆殺しにしようぜ。そして、おまえが女王になっちまえばいいんだよ」
「やだよ。女王なんてそれこそメンドくさい」
やがて黒猫は観念したようにまた問うた。
「結局おまえはどうしたいんだ?」
「もう王太子妃サバイバルなんてたくさん。どこか静かなところで一生文章を読み書きして穏やかに暮らしたい」
黒猫はしばらく考え込んでいたけど、すぐ顔を上げた。
「分かった。俺の故郷に行こう。そこで俺と暮らそう」
黒猫の国では黒猫は長身黒髪の美青年になった。それよりも私は静かに暮らせるようになったことが嬉しかったが。
追手避けのため黒猫はネズミの死体を私に変化させて牢に置いてきた。そのことは思わぬ副作用を生み、私を陥れた者たちはありもしない私の祟りを恐れ、勝手に悶死していった。
私はと言えば今日も元黒猫にこう言われている。
「なあ。そろそろ結婚しないか?」
「うーん。どうしようかな」
読んでいただきありがとうございます。
本企画には他に「仮面舞踏会ではないのに仮面を着ける伯爵令嬢は王太子の婚約者」と
https://ncode.syosetu.com/n1951ll/
「王太子妃は転生先で夏の暑さと戦う(風鈴)」
https://ncode.syosetu.com/n5448ll/
という作品で参加しています。
よろしければこちらもどうぞ。




